祈り

朝斗 真名

祈り 〜テンプレなろう系アンチに贈る王道バトルファンタジー〜

前篇 pray to the moonlight

ぼくの見た夢

「ロイ……」


 午後になってからずっと、誰かに呼ばれている気がした。ボールを投げ合っていても、木登りをしていても、ふとした瞬間にぼくの名前が聞こえるのだ。

 草原から森の方に駆けて行くと、その声はより頻繁に耳に届くようになった。けれど、友達の誰も、そんな声は聞こえないという。


「空耳さ、忘れろよ」

 友達がそう言うのも振り切って、糸に引かれるようにこっちに来てしまった。がさがさ辺りを探ってみるが、まだ何も見えてこない。友達はそんなぼくを一瞥して、さっさと遊びの輪の中に戻ってしまう。

「ちぇ、つまんないな。ロイはいつもこうなんだから」


 人間誰しも、聞き間違いくらいあると思う。ぼくはそれが人より多いのも、また確かだった。でも、聞こえたのだ。今度こそ、本当に。小さな声で、すすり泣くような――囁くような、女の子の声。


「ロイ……」


 ほら、やっぱり聞こえた。向こうの方だ。今度こそ、証明してみせる。ぼくの耳は、作り物なんかじゃないってことを。絶対にだ。

 そうしてもう一歩踏み出した右足が、何かにカツンと触れた。はっとしてぼくはその場に屈み込む。


「ロイ……」


 ほら見ろ、空耳なんかじゃなかったじゃないか。ぼくは夢中で草をかき分けた。友達の声が、木々のざわめきが、急速に遠のいていき、ぼくを呼ぶ声だけが耳に残る。


「ロイ……」


 草地の上に顔を出したのは、細長い包みだった。何だろうと思ってそれに手を伸ばしたとき、風が吹いて、巻きついていた布がはらりと滑り落ちた。中から銀色の光沢がこぼれ出した。

 ぼくは思わず、目を見開いた。剣じゃないか。それに銀色の光……まさか、伝説の金属、ミスリルか? ぼくはおずおずとそれを持ち上げる。でもまじまじと見つめる前に、それは急に熱を帯びて、ぼくは痛みにびっくりして剣を取り落とした。

 それを合図にしたかのように、一人の女の子の幻影が、剣の上に突如として現れた。そして先程ぼくを呼んでいた声で告げる。


「我が名はガイア。勇者ロイ、選ばれし者よ」


 ぼくは呆然と女の子を見つめた。

 こういう魔法は、見たことがあった。イリュージョンという名の、幻影魔法。ぼくははっとして、慌てて辺りを見回した。この世に何百人といる魔法使いのうちの一人が、この女の子の幻影を近くで操っているはずだった。しかしそれらしき人影は見当たらず、辺りは物音一つしない。


「勇者ロイ、貴方に使命を与えましょう」


 かわいらしい声が、静寂を打ち破って辺りに凛と響く。ぼくは震える足を踏ん張って、恐る恐る、彼女に目を向けた。

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