夜が明けるまで、私と

 ハイネのスピードが落ちたのは、三時間も経った後だった。

 死刑になる前に死ぬかと思ったけど、生きている。ゆっくりと地面に足をつけると、なんだかまだ浮遊感が残っていて、ふわふわとしているせいか接地感が怪しい。足がついたような気がしない。それでもなんとか両の足で立ち、ついた場所を見る。

 朽ち果てた廃墟が目の前にあった。ぼろぼろと崩れていくがれきが見える。おそらく昔は劇場だったのだろう、ぐるりと客席らしきものが周りを囲っており、真ん中の、つまりは僕たちが立っている場所が劇場の中心であり、ステージだったのだろう。広く何もないスペースが円形状にとられている。上からは、高そうな太く厚い赤黒い布が垂れ幕のように垂れ下がっており。上を向けば、ぽっかりと穴が空いている。そこから月明かりが入って、ステージを、僕たちを照らしている。


「こんなところがあったんだな……」

『この劇場はもう使われてないし、誰もいないの。役目は機械人形オートマタが出てきた辺りで終わってるから。』


 ハイネが目を閉じて、言う。

 月明かりで銀糸の髪がきらきらとひかる。ハイネが目を開けると、ここにも小さな夜空があるようで、きれいだった。白いワンピースが揺れて、桜色の唇が開かれる。


『――――さあ、踊って。』


 最初の頃のノイズはもうない。なめらかに発声して、ハイネはこちらへと手を伸ばす。もうあの頃のディスプレイはない。伸ばした手は、当然のごとくハイネの手を掴む。

 ディスプレイに存在するだけだった彼女はもういない。


『夜が明けるまで、私と』


 誰もいない、月明かりが照らすステージで、僕はハイネと踊る。夜が明けるまで、ずっと。

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夜が明けるまで、私と 武田修一 @syu00123

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