ひとつの通告

 ポーン、と通知音がディスプレイから鳴る。どこかからメールが届いたらしい。発信元は、国だった。いやな汗がつぅと、頬を伝う。わかりきっていたことである。

 メールを開くと、予想通りの文言が並ぶ。

 機械人形オートマタに、人工知能を載せるのは違法であり、禁忌だ。バレたら、死刑で、減刑は望み薄で、間違いなく回避することはできない。機械人形オートマタは所有者が処刑された後で、処分され、スクラップになる。こんなのは、子どもでもわかっているぐらいこの国では当たり前のことだ。

 だから、誰も機械人形オートマタに人工知能を載せない。

 わかっていてやっていた、当然だ。ハイネと同じ世界に生きたいだけという理由で、僕は禁忌をおかした。

 ディスプレイに表示された通告を眺める。文言は変わらない、僕の死刑も覆ることは無い。ない。


『これ……』

「ハイネ、」

『ね、逃げよう』

「逃げても無駄だ。もうそこまで来てるはずだ」

『まだ、私、冬夜と踊ってないよ』


 にこりと笑ったハイネは僕の手を乱暴に掴み、家を飛び出す。タイミングを見計らって突入しようとしていたやつらの不意をついた形となった。そのおかげか、ハイネの逃走がうまいのか、どんどんやつらが見えなくなっていく。遠退いていく。


『ねえ冬夜!これでもまだ逃げ切れないって思う?』

「……思うよ」

人工知能わたしは人間よりも知識がある。機械人形オートマタのおかげで身体能力も力もあるよ。冬夜だってわかってるでしょ』

「それでも、」


 ハンデぼくを抱えて、逃げ切れるとは思えなかった。ハイネは悲しそうに笑って、握った手を強く、つよく、握る。そうして、握った手を不意に手放した。

 どうして、と言葉を紡ぐ前に、ハイネは僕の背中と足に手をかける。


「えっ」


 ぐいっと力を入れられて、僕の体は宙へと浮かぶ。まさか、まさか。

 ああ、とても情けないことに僕は今、ハイネにお姫様抱っこをされている。こんなところを誰かに見られたくない!見られるぐらいなら、おとなしく死刑になっていた方がマシだった!


「下ろしてくれ!」


 そう叫んだが、ハイネは僕の意思を無視して、走り出す。機械人形オートマタの力をうまく使いこなして、僕はバイクにでも乗ってるんじゃないかと思うぐらいのスピードで駆けていく。おそらくこれ以上のスピードを出せるんだろうけど、出したら間違いなく僕は死ぬ。死ぬったらしぬ。このスピードでも耐えられそうにないのに。ハイネは僕の制止も聞かずに、ただただ走り続けた。

 追っ手はついてこなかった。

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