バニラの香りの煙草の烟が導く思索の行く末は、いずこ。

肉と魂は調和して然り? 
それとも背反して然り?

冒頭、病院のカウンセリングから語られ始める若き人の悩み。
既に「肉と魂」の、せめぎ合いに耐えかねているのだろうと思わされる。
生きているかぎり、せめぎ合いを聴かない人間はいないであろう。
聴こえていたとしても聴こえていないふりのできる人間は、ともかく、人の世は割り切れない感情で渦巻いている。

「快楽」を抽出するのは容易い。
あえて困難な命題に立ち向かうが如く「苦悩」を抽出する先に見える景色。
その景色の見える場所に立ち寄るのは秘境に赴くが如く。
作者様が辿り着こうとする境地に一緒に踏み込むことを許されるのは、これが小説だから。畏敬の念を表して読み進めたい。