エピローグ

「アナーキーとは挑む事だ。社会に挑む最良の方法はコメディだ」ジョニー・ロットン


2020年7月31日。


「変なメールが来たんだけど、君はどう思う?」


 僕は、玄関の家内プリンツに話しかけた。


「変って?」

「ちくねこだん。の入ったメールなんだけど、僕の知ってるちくねこだん。とは、ちょっと違うんだ。僕がまだ書いてない最終回まで、ちゃんと書かれているんだよ」

「へー」

「おまけに、タイムスタンプが2020年12月23日なんだ。これって変じゃないかい?」

「未来から来たメールってこと?」

「うん」

「作品の他に、何かメッセージはないの?」

「作品のテキストデータは添付されてて、メールの本文にはこう書いてあった」


『七月末のシド・ヴィシャスへ このちくねこだん。を、ほっこり大賞におくってください。十二月末のシド・ヴィシャスより』


「よくわからないけど、送れって言うならとりあえず送ってみれば? 別に損はないんだし」

「うーん……。最後だけとはいえ、自分の書いてないものを公募に出すのはなあ……」

「あんまり出来が良くないの?」

「いや、そんな事は無い。ちゃんとまとまってる。いま僕が頭の中で考えてるプロットとそっくりだ」

「じゃあいいんじゃない? どうしても気になるなら、作者名を少し変えたら?」

「作者名?」

「伊集院アケミAとか、伊集院・F・アケミとか」

「藤子不二雄かよ!」


 こんなやり取りをしつつ、僕は指定されたサイトに、どんどん、ちくねこだん。を投下していった。最終日だったからちょっと慌てたけど、何とかうまくいった。ちくねこだん。というタイトルに思い入れはあるんだけど、賞を狙うなら少しカッコつけた方が良いような気がしたから、未来から来たこの作品は、『猫のいる街のシド・ヴィシャス』にタイトルを変更してみた。


「何か賞に引っかかるといいね」

「どうかな。基本的に、書籍化できる作品が欲しいみたいだから多分ダメだと思うよ。でも、【優秀短編賞】っていうのがあるみたいだから、ちょっとは期待しとくか」

「そうね」

「もし何か賞が取れたら、全力さんと半力さんに、ちゅーるを買ってあげよう」

「そうだね」

「じゃあ、行ってくる。今日も多分、遅くなるから先に寝てていいよ」

「わかった。頑張ってね」


 玄関のプリンツにそう挨拶して、僕は赤瀬川さんの事務所に向かった。猫のトイレ掃除をしたら、今日も一日中、執筆である。年内には何かしらの目途を付けないと、僕の支援者たちも愛想をつかしちゃうかもしれないからね。


追伸。


 しんさ員のみなさま。十二月末のシド・ヴィシャスを、どうかすくってあげてください。


<おしまい>

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ちくねこだん。 伊集院アケミ @arielatom

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