『翼』というモチーフがこんな使われ方してる時点で強い

 背に翼を持つ『有翼者』という人々の存在する世界のお話。
 ジャンルには現代ファンタジーとあり、実際その通りの世界設定なのですが、個人的にはSF的な口当たりというか、現実に放り込まれたifみたいな感覚で読みました。
 約3,000文字というコンパクトな分量で、文章や展開もさらりと読みやすくまとまっているわりに、主題の掘り下げがゴリゴリ底まで到達しているというか、がっつり食べ応えのある物語でした。
 短いのでここであれこれ言及するのもなんなのですが(だって本文読んだ方が早い)、ある種のアウトサイダーあるいはストレンジャーのお話です。以下かなりネタバレ気味の感想になります。
 市民の中の『有翼人』という括り、そしてその有翼人のひとりである主人公。彼が社会の中のいち個人としてどのように生きるか、その姿勢はでも有翼人の中のひとりとしての彼のそれとは決してそのまま同一に結び付けられるものではなくて、つまりそれぞれ『社会から見た個』と『集団から見た個』の、そのアンビバレンツな重ね合わせの存在としての彼。そこに生じる複雑な感情が、胸中で擦り切れてひりつくような感覚。
 驚きました。文字を通じて伝わってくる淡い痛み自体もなのですけれど、なによりそれが『翼』というモチーフに仮託されて著されていることに。きっと現実にも同じく存在するであろう種類の葛藤や痛みを、そのまま架空の存在に仮託することで浮き彫りにして、しかもそれがファンタジーにはおなじみの翼、広い空を自由に飛び回るための空想の象徴という、こんなのたぶん初めて見ました。
 そのうえで、一番惹きつけられたところはやっぱり、この物語の帰着点です。主人公が最後に見つけ出す答え。あるいは答えと呼べるほどのものではなく、もちろん何かが解決したというわけでもない中、それでも自分の中で何かに区切りをつけて上を向く、この小さくも確かなハッピーエンドがもう本当にたまらない作品でした。

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