第8話 吉岡朋子の話
私は両親とおばあちゃんと一緒に暮らしていました。おばあちゃんとは、父のお母さんです。母にとっては
私が小さい頃から、母はおばあちゃんに何でも聞いていました。
「お手伝いしましょうか」「晩ごはんは何にしますか」「これでいいのですか」
ある日、母が自分の判断で私に服を買ってくれました。いつもおばあちゃんの意見が入っていて
けれどもその日の夜、母はおばあちゃんに怒られていました。「
次の日の朝、おばあちゃんが父にくどくどと何かを言っていました。多分昨夜の続きだと思いました。父は会社へ行く時間が迫っていて、どうにかおばあちゃんをなだめていました。そして家を出る直前、
「ばあさんの先も短いし、あんまり興奮させるなよ」
母は何も答えませんでした。父も母の顔を見ることなく、会社へ行ってしまいました。母は昨日はおばあちゃんに怒られて、今朝は父に八つ当たりをされたのです。私は母の顔を見るのが辛くて、何も気づかないふりをしました。
それからも母は時々おばあちゃんに怒られていました。父は母に、いつも似たようなことを言っていました。母はこれまで以上におばあちゃんに質問を繰り返していました。
私が中学生の時、おばあちゃんが死にました。これで母はおばあちゃんに怒られなくてすむ、そう思って少し嬉しかったです。けれどもそんなことを思ってはいけないので、自分の胸の中にしまいました。
私は少し嬉しかったけれども、父と母はバタバタしています。近所の人も来て、私まで気持ちが忙しくなりました。
「どこの
母が父に聞いていました。この家から葬式が出るのは初めてです。おじいちゃんは父が若い頃に亡くなったそうです。
「自分の判断でやってくれ」
父は母に、そう言いました。葬式というものは嫁がやるものなのでしょうか。この時から母に、表情がなくなりました。
全ての手配を母がやりました。夜通し
お
私たち遺族はお通夜に来た人全員に一人一人、お辞儀をします。最初は椅子から立ち上がってタイミングを見てお辞儀をするのに精一杯でしたが、だんだんコツを掴んできました。相手の顔を見る余裕が出てきたのです。
父の会社の人で一人、違和感のある女の人がいました。他の人はみんな哀しそうな顔をしているのに、その女の人だけ綺麗な顔と表情をしていました。私はとっさに父の方を見ました。気づいてしまいました。父はこの女の人と不倫をしています。
お通夜が終わり、私は解放された気持ちで会場内をうろうろしていました。父が会社の人に挨拶をしています。あの女の人にだけ、やっぱり雰囲気が違います。このあと家にも来るようです。
近所の人や父の友人・会社の人が家に来ました。最初は静かだったけれどもみんなお酒が回り
「お手伝いしますよ」
あの女の人はそう言って、父と二人で奥の部屋へ行きました。お酒を取りに行くそうです。私にはピンと来ました。私は台所に寄ってからこっそり二人のあとをつけました。ビンゴです。二人は抱き合っていました。
父がこの女の人と不倫をしているから母はおかしくなったのだと思いました。葬式の期間、眠らずに無表情で全てをこなしているなんて
とても嫌だ。私は母のようにはなりたくない。そう思いながら私は自分の判断でその女の人を包丁で刺しました。父が何かをわめいています。
「自分の判断でやれって言ったじゃん」
私は一言だけ言いました。
私は病院へ連れて行かれました。カウンセラーという人が何かを話しています。
あの女の人の刺し傷は大したことがなかったので
私はしばらく病院に通うことになりました。あのカウンセラーの話を聞くために。あの女の人を刺した時私は自分だけの判断で動いてしまい、それが間違っていたのです。同じ間違いを繰り返さないように、そのうち他人の意見も聞くという習慣がつきました。今度こそ間違えないように、私は
高校は通信制を選びました。病院にもまだ通う必要があるため、それが良いだろうと両親も言いました。人と話すことは少なくなりました。
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