質問する女
青山えむ
第1話 序章
平和に過ごしたい。誰とももめずにやり過ごしたい。少しくらい自分の感情を抑えて済むのなら、それでいい。
波風を立てたくない。凪のような水面でいたい。
私がそう思うようになったのはいつからだろう。
六年前に短大を卒業してそのまま就職。入社当時は総務部にいた。総務部には綺麗な女子社員がたくさんいる。ここで、選別をされる。上司に気に入られた女子社員はそのまま総務部に残る。気に入られなかった女子社員は他の部署へ異動になる。
誰も何も言わないけれども、それがここの伝統らしい。
上司
仕事だけではない、コミュニケーションも上手くとれずに私は孤立していった。
総務部は会社の顔、などと言われていた。綺麗でいるのは当たり前、仕事が出来るのも当たり前の空気。やる気のなくなった私は外見にも気を遣わなくなり、来客から見えない席に移された。
気づいたら製造課へ異動となった。来客とは一切関係のない職場。それだけで私は解放されたように思えた。外見に気を遣わなくても何も言われない職場。そう思っていた。
しかし現実は予想と違った。製造課にいる女子社員は私よりも年上の人が多い。しかも総務部に劣らず美女揃いだった。今までと同じにしていたらまた孤立する。本能的にそう思った私は積極的にコミュニケーションをとろうと思った。流行のメイクや髪型の情報を集めた。共通の話題を見つけるのに必死だった。けれどもなかなか話題に加わるタイミングが来ない。
私はパソコンスキルが高いと評価され、事務所の仕事を任された。
「
この課で数少ない男子社員の
宇和島さんの資料作りの他にも覚えることはたくさんあった。事務所のスタッフはいつもパソコンに向かっている。なかなかコミュニケーションをとりにいけない。
「神崎さんパソコンだけは早いもんね」
二ヶ月ほど経った頃、宇和島さんの台詞が変わっていた。けれども仕事を押しつける行為は同じだった。この人が嫌われているのが解る。
宇和島さんは仕事中にちょくちょくいなくなる。どこに行っているのかは知らない。製造ラインを任されている作業者は、そんな宇和島さんの文句をよく言っている。ちょうどその場面に通りかかったので、私は会話に加わってみた。
「私によく資料作りを押しつけてくるんですよ」
私はちょっと困った風を装って言ってみた。作業者たちは盛り上がった。最低、だの給料泥棒だの思いつく限りの単語を並べていた。
女子が多い職場はこういった所から入るのがいいのだろうか。心の中で初めて宇和島さんに感謝した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます