第一章『レンタル編』
第1話『プロローグ』
若気の至りというやつなのだろう。未だ高校二年生なのだから若気の至りは可笑しいという人もいるかもしれ……いや百人に聞いて、百人が可笑しいと答えるだろう。
彼女が欲しい……『この欲望は高校二年生ならば通常の反応だと思う』と俺は思う。
しかしだからと言って何故俺は彼女をレンタルしてしまう事になったのだろう。
一条財閥……この名は日本のみならず世界でも有名だ。銀行業、鉄道業、IT産業製造業、出版業、報道業、……特に最初の二つは有名だ。一條銀行・一條帝國鐵道共に戦前から存在する。他の複数の有名財閥と共に日本の根幹を支えている。
これこそ一条グループ……各財閥の使命だ。
俺は中学一年の秋に飛び級でアメリカの大学へ行った。三年間で大学の博士課程を卒業し、高校一年の秋俺は両親と共に再び住めると期待して帰ってきた。
にも関わらず、あのバカ両親は『一条グループの総力をあげてでも、成功させなければならないプロジェクトがあるから』と欧州に行ったきり、まだ会えていない。ついでなのか、妹も短期留学だとかでヨーロッパへ行っている。ストレスが溜まって仕方ない。
それにも関わらず、夏休みとかに帰っても中々都合が合わず、過ごせる時間が少なかったから更にたちが悪い。
三年間でアメリカから日本に帰って来たと言うのに高校一年終了次には、陰キャ筆頭としてクラスカーストはDグループになるわ、友人は全然出来ないわで、増す増すストレスを抱えていた。
で二年生となり彼女を作ろうと心に誓ったのに関わらず……全くと言って良いほど彼女が出来ず。仲の良い人はいるが、そういった相手ほど関係を壊したくないという意志が働いてしまい、好きになることもなかった……
自分で言うのは恥ずかしいが、十六歳にして大学を卒業済み、一条財閥の御曹司(学校では秘密にしているが)、剣術・体術を会得済み、顔は……気にしてはいけないと結構な優良物件だと思うのだが……
(誰か告白してくれる相手はいないのだろうか)
とそんなことを考えて学校へ通う毎日だ。
ある時株主優待でレンタル彼女をレンタルすると二割引きされるらしく、学校でレンタル彼女のサイトを眺めていた。
そんな中数少ない友人の佐々木和真が、俺の林檎マークのついたスマホを覗き込みながら……「おいおい、レンタル彼女ってよ……そんなのに走らずにそろそろ彼女の一人でも作ったらどうなんだ?」と言ってきた。
「いや正直女性との距離感とかが掴めなくてな……あと告白も…」
「ほーなるほど……少しスマホ貸せよ」
和真はニヤけつつ、一瞬(何を言っているんだ、こいつ)と思っていた俺からスマホをぶん取ってしまった。
少し経ってからスマホを投げ返されると、和真は「彼女の一人すら出来ない秀麻の為に、一押ししてやったんだ感謝しろよな」と言ってニヤけつつ立ち去っていった。
そんな和真の背を見つつ俺は『一応彼女いた事あるんやぞ)』と返答しておいたのだが、どうせ和真には聴こえていないであろう。
正直昔付き合っていた彼女はむちゃくちゃ可愛いかった。贔屓をしているとかいう訳でなく、芸能人なのではないかと疑う程に可愛かった。
そんな彼女を今でも未練がましく、考えてしまうことがあ……いやいや今はこんな事を考えてるべきじゃない。もう終わった事なのだ。
彼女とのデート帰りに寄った書店でレンタル彼女の漫画を手に取り読んだ時には、俺は今後の人生で絶対にレンタルしないだろうと考えていた。
だって可愛い可愛い彼女がいるんだからと……
その筈なのにも関わらず、彼女とは自然消滅してしまった。そして和真が勝手に彼女をレンタルしてしまったのだ。
うぅぅ……既に時計は二時を指している。明日は九時に青ガエルの前で待ち合わせるという契約をしてしまっている。
ん?ハチ公前じゃない理由はだって?だって青ガエルの方が、分かりやすそうじゃないですか。
と言う事で、明日のレンタル彼女とのデートに不安を抱えつつも俺はふかふかのベッドに入り、程なくして意識を手放した。
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