あとがき~リドル解説~
本編を読んで頂き本当にありがとうございます!
ここからはストーリーに大きな影響は与えないけれど、作中に隠れていたリドル(謎かけ、一見矛盾したモヤモヤ感、答えのない謎)を少しだけ解説していこうと思います。
ネタバレ全開で進めていきますので、本編読了後に読んで頂くことをお勧めします。
また”答えがない事”がリドル・ストーリーの醍醐味ですので解説は触りだけで全貌は明らかにしませんので許しください。
Web小説ならではの楽しみ方を模索して実験的にリドル解説を行っていますが、興味のない方や、解釈の解説は邪道と感じる方(実は私はこっち派だったのです(笑))はスルーの方向でお願いいたします。
というわけで、リドル解説スタート!
本作のリドルは物語の最後の一節、
『震えていたのは寒かったからだと思う。』
の解釈に集約されます。この一節の解釈次第で様々な美冬と秋人の関係を(朧気ですが)生み出すことができます。
まず、
・なぜ震えていたか?
そして、あえて主語を抜いたこの一節は、
・誰が震えていたか?
この一節には、以上の二つの謎かけが隠れています。
ではまず、【なぜ震えていたか?】から解体していきましょう。
〇単純に寒かった説。
舞台は停電した夜の冬ですので、玄関先が寒いのは当然。震えもします。でも物語としては情緒が無いね(笑)
〇涙を隠していた説。
互いの別れを惜しんでの涙なのか……。
もちろん、別の理由もあるかもしれません。
そして【誰が震えていたのか?】について解体します。こちらは単純で
〇美冬が震えていた。
〇秋人が震えていた。
〇二人とも震えていた。
この三パターンが考えられます。
さて、謎かけから導き出されるポイントが揃いました。これらのポイントを解釈する材料を作中からピックアップしていきます。
《白い息には昨夜のタバコの香りが馴染んでいた。》
物語が始まってすぐのこの描写は、美冬と秋人の関係が恋人以上であるか否かを示唆する材料です。そしてこの一節から、二人の関係は恋人以上ではない、と仮定することができます。
なぜなら昨夜タバコを吸っていたのは美冬だけ。
タバコの匂いは昨夜の秋人との思い出を想起させるきっかけにすぎません。
仮に昨夜においてタバコを吸っていたのは秋人のみ、美冬は喫煙していない、として物語を組み立てていた場合、
【白い息には昨夜のタバコの香りが馴染んでいた。】
の一節だけで、昨夜、二人の間にキス、ハグ等の接触があったと想起させることができます。もし、恋人関係であるなら喫煙者は秋人のみにしていました。
※2020年7月11日追記
今作を公開した直後、本当にありがたい事にMond-Ya Nohant 紋屋ノアン様より本作へレビューを頂きました。
そこに書かれていた一節
>震えていたのは寒かったからだと思う…もしかして美幸は薄着? 二人の(雪を溶くような)夜を思い浮かべた私はいけない人でしょうか。
という一言に僕は戦慄しました。
この”あとがき”の中ではタバコから分析して美冬と秋人の恋仲を否定するような説明をしましたが、実は別の論点から読み取ると二人の恋仲を肯定できるのです。
その論点と言うのが二人の間には肉体関係があるか?
完全に隠し通すつもりだったリドルです。それを示唆する描写が、
《ライターの先で揺れる小さな灯に照らされて、艶めかしく輝いた傷口が、しょっぱいような、鉄っぽいような味を想起させたから私は煙を吸い込む。》
直接的な描写ではありません。メタファーです。フロイト心理学のように、あらゆる事象を性器に結び付けるような読み方をしないと辿り着けません。それってただの変態な――
ゴホン。ゴホン。また、秋人が美冬の家の中に入った際の舞台転換は改行のみで行われていますが、秋人が美冬の家から去る直前の舞台転換では不自然な
※ ※ ※
によって区切られています。ここでは時間の経過を示唆させました。肉体関係があったとしたら、このタイミングですね(下世話な解説である!!)。
ここの描写では二人の間に肉体関係があったことを確定させるのではなく、そう言った事柄も示唆できるように作った、と言うだけの事です。なので解釈はどちらでも正解なのです。
それにしても最後までタグに【官能】って入れようか迷って、結局入れなかったのにバレてしまうなんて。読み込んで頂けて嬉しいんだけれどバレて悔しい(笑)。いや、めちゃくちゃ嬉しいんですよ!!
改めてMond-Ya Nohant 紋屋ノアン様へお礼を申し上げます。そして、もしかしたら、このリドル解説より、ノアン様のレビューの方が深い分析ができているかもしれません(爆)
《次第に痛みに似てくる指先の痺れが何故か嬉しかった。》
雪かき中に寒さで手が凍えている美冬の描写です。
前日に秋人に手袋をあげてしまった為、凍えている美冬の指先。その指先の凍えは、本来だったら秋人が感じていたかもしれない凍え。そう思うと美冬は嬉しかったのかもしれません。秋人に対する美冬の感情を示唆しています。
《その時、私は右目の端から零れ落ちた一筋の涙に気が付い――》
秋人を見送りに行かなかった美冬の涙の描写。
直前に聞こえた踏切の音が、雪のせいで電車が止まると信じていた美冬を裏切ったのかもしれません。ただし、その踏切の音は美冬が言う、
【太陽の温かさを忘れてしまう季節には、そこかしこに雪を溶く熱が確かに存在して――】
にて語られる雪を溶く熱が生み出した社会のエネルギーでもあります。
そして、解釈の一つですが、思考が断絶されるのは、何か認めたくない気持ちがそこにあるからかもしれません。
《コートは思いのほか薄手で、私は彼の頭を軽く叩いて、そこに積もった雪を払い落した。》
玄関先でレインブーツを脱ぐ秋人の描写。
あえて叩いたのはツンデレです。雪国で断熱性の低い防寒具を着てたら寒いに決まってますので、叱る意味合いも含まれているかもしれません。
《かえってきた声の可笑しそうな含みに私はどこか安心した。》
停電の直後、美冬が暗闇の中、秋人に声を掛けた時の描写。
ひらがなで書かれた『かえってきた』は、『返ってきた』『帰ってきた』等の複数の解釈を促すためです。
『返ってきた』なら直接的な情景描写に近いです。
『帰ってきた』だと(秋人が地元に帰ってきた)と言う意味合いにもなりますし、深読みすれば、秋人がずっと地元に残るかもしれない、と言う期待が籠っているかもしれません。
《今でも手を繋ぐ女の子に
二人は、過去に手をつないだことがある、と言う描写。どういう関係で繋いだ手なのかは内緒にしておきます。
《それから秋人は何か言おうとしていたみたいでズボンの裾をレインブーツの中に押し込む手を止めたのだけれど、少しの
「そっか」》
帰り際、玄関先でレインブーツを履いている秋人の描写。
秋人は何を言おうとしていたのか。
「一緒に行こう」と誘いたかったのかも……。
《踵を鳴らして振り返った秋人が私に向けた笑顔が――》
玄関先で立ち上がった様子の描写。
秋人が震えていた(泣いていた?)としたら、このタイミングと推測できる。
さて、この他にも本編中には推測するための小ネタは幾つか隠れているのですが、この辺にしておこうと思います。
リドル・ストーリーの楽しさは答えの無い所にあります(もちろん作者には作者なりの答えがあるのですが)。どのような解釈、感想を抱いて頂いても、それぞれが正しい物です。作者の想像を超えた答えを導き出した読者様からご意見を頂く、といった醍醐味も魅力の一つです。
矛盾点や、作り込みの拙い点も多々あったかもしれませんが、リドル解説はこの辺で終わりにします。
本編だけでなく、このような自己満足だらけの解説まで読んでくれた方、重ね重ねありがとうございました。
もし楽しんで頂けたなら、これ以上嬉しい事はありません。
かしこ。
雪を溶く熱 ~説明と心象描写を極力排し、情景描写によって想起を促す筆致ver.~ D・Ghost works @D-ghost-works
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