★★★ Excellent!!!
私も檻に戻りたい Mondyon Nohant 紋屋ノアン
おすすめレビューなので本末転倒ですが、このレビューはネタバレ必至ですので、先ず小説をお読み下さい。
一字一句すべてが謎だと思って読む…それが、D・Ghost works文学に対峙する際のスタンスです。況してや、作者はキャッチコピーで「リドルストーリー」と読者を挑発しているわけで…
スノーダンプで除雪する際、手袋は必須です。凍える指先の痛みが何故嬉しいのか、隣人の念押しなど、「手袋」がこの物語における最重要アイテムであることに読者は先ず気づきます。
「雪を溶く熱」が雪にもたらすザラザラとした感触(雪国の人間にはわかります)が美冬と秋人の別れとどう繋がるのか、私は「へへへ」と不気味に笑いながら読み続けました。昨夜のタバコ、踏切の音、右目の涙…作者は一話「雷雲の去った朝」でてんこ盛りの謎を提示します。
二話「昨夜の追憶」で、記憶が美冬につく嘘とは何か…作者の思惑通りそれを頭の隅に置きながら読んでしまいました。嘘というより「迷い」かもしれません。美冬はすでに迷いを捨てたつもりですが、秋人の来訪によって再びその迷いが揺らぎます。彼のレインブーツ(スノーブーツではなく)は美冬の迷いの一端です。
落雷による停電、音を吸い込む雪、石油ストーブ(ファンヒータではなく)等々で作者は沈黙する夜を描き、美冬を無音の心象世界(迷いの世界)に置きます。
朝、たぶん秋人は美冬の家を訪れています。車が無い(美冬は仕事に行った)ので、夜まで(近くの実家?で)待っていたのでしょう。秋人は「檻」に戻るつもりはありません。わずかな希みを抱いて彼は美冬を訪れました。
ココアもあかぎれも子供時代を連想させます。二人は幼馴染です。二人が共にした時間は短くありません。ピアニッシモも二人が共有した「時」のメタファーでしょう。
今でも手を繋ぐ女の子を躊躇わせるんだろう…美冬はそんな女の子はいない、或…
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