第3話 現象に紫は悩む

「現象を情報化する」と聞いて、皆さんはどう思うでしょうか?


教科書に載っているじゃないですか?

『自然現象および物理法則を情報化し、そのデータ、システムをもとに、新たなアルゴリズムを構築し、新しい現象を引き起こすこと』(『ゼロから始める現象情報学』教育省出版)って。


僕にはさっぱりわかりません。


こんなの普通高校生が学ぶことじゃないんですよ。

でも零ヶ崎高校ではやるそうですね。まあ、いくつかの高校もやるそうなので、驚くわけではありませんが。


自然現象や物理法則にはその発生条件と周りへの影響があるが、それをより詳細にみると、一つ一つにオンオフという動きがある、らしい。わかるようでわからんが。

それを1と0で管理し、情報化と具現化を行ったり来たりすることができるようになったという。


例えば、発火を取り上げてみよう。


燃焼には、可燃物、酸素、発火点の温度が条件であるが、それらがそろうとき、どのような状態なのかを見る。ちょっとでも湿度が高かったり、反応がうまくいっていないと火は出ない。火が付く、原子レベルの動きがエラー無く成功することで、発火という「現象」が発生する。わかりそうで曖昧なこの「現象情報」という理論をとある4人の天才が実現したというのだ。


と、教科書を読んでいた僕は、次の現象情報の授業の前に、遅れた分を取り戻そうとしていた。


いやあ、難しい。


そして、授業がはじまった。しかも2時間授業だ。


「皆さん、こんにちは。1時間目は座学系の最後の分野、サーバについて学んで、二時間目からはさっそく実技をやりますので、がんばりましょう」


もう不安しかねえ。


もうあきらめて昼寝するという選択肢もあったが、転校してきたばっかの中でする勇気がなかった。とりあえず板書は移しとくか。カバンからノートを出したが、そこで肝心の筆記用具を忘れたことに気が付いた。


まじかあああああ。


転校してきたばっかと言いつつ、筆記用具を忘れるという失態を犯してしまうとは。もう本当に寝ようかとおもったが、そこはあきらめず、隣の人に筆記用具を借りることにした。席は窓側の一番後ろだったので、右の人に話しかけようとした。


右には女子が座っていた。その子のあまり長くない髪はアッシュ系の色に染まっていた。黒板と照らしてべんきょうするのか教科書を立てて、食い入るようにノートを見ている。目の焦点あっているんですかと聞きたいぐらいな感じで。


「スーー…」


って、寝てんじゃん。


こうなったら前の人に借りるかと思ったとき、右にいた女子が起きたのか、まだ完全に開ききれていない目でこちらをみた。


「…」


「…」


「…」


「…あ」


「スーー…」


いきなりの二度寝に驚いたが、とりあえず声をかけてみることにした。


「あの、眠っているところすいません。筆記用具を貸してほしいのですが」


二度寝なのか、声は聞こえたらしく、右席の女子は顔だけこちらに向けた。


「…何?」


目をつぶったまましゃべっていた。どんだけ眠いんだよ。


「あの、筆記用具を貸してほしいのですが」


そういうと、彼女はうーんっとうなって、机に伏したまま、横にかかっているカバンから筆箱らしきものを出した。そして、彼女の左手を僕に突き出した。どうやら貸してくれるようだ。感謝。

突き出された手の下に手を置くと、彼女の手が開き、僕の手の上に何かが渡された。


シャーペンの芯。おそらく0.5ミリ。


・・・


「あの、芯がなくなったとかそういうんじゃなくて…」


そういうと、彼女はまた目をつぶったままこちらに顔を向けた。


「うーん?」


「だから、芯じゃなくて、シャーペン自体とかそういう…」


「スーー…」


こいつ、わざと寝てるのではないだろうか。このままでは板書を移すのに間に合わなくなってしまう。僕は仕方なく、前の人から借りようかと思ったが、その時彼女がまたにぎった左手を僕のほうに突き出した。やっぱり、悪ふざけだったのだろうか?僕は受け取ることにした。


白いシャープペンシル。芯無し。消しゴム無し。しかも持つところののゴムもない。


本当にシャーペン自体を渡してきやがった。一体どこにシャーペンから付属のものを外す時間があった?


幸いにも0.5ミリ用だったので、最初にもらった芯を入れると、普通のシャーペンと同じように使えた。これで何とか、板書は書けそうだ。

右の席の女子は、起きるそぶりも見せず、ずっと机に顔を伏せていた。疲労とかいろいろ原因があるかもしれないけど、僕から見ると、まるで授業を聞きたくないという反抗のように見えた。ただ寝て、時間が過ぎるのを待つ。彼女はそう選択した。僕もこの選択をとる可能性はあった。でも僕はそこでとりあえず頑張るという選択を選んだ。その選択の根端が同じである彼女と僕。そこには何か親近感というか、共感できるように思えた。まあ、実際彼女がどう思っているのかわからないけど。


「あの、消しゴムも貸してほしいんだけど。あとそろそろ、このペンについていたゴムも貸してほしいんだけど」


すると彼女はまたまた握った左手をつく出した。受け取ってみると、折りたたまれているちいさいメモ用紙だったので、開いてみた。そこにはかわいげらしく小さい字が羅列されていた。


消しゴム、600円。シャーペンのゴム、200円。


DLC…。しかも消しゴム高!


「そろそろまじめに貸してほしいのだが」


もはやこの人に対する距離感は感じられなかった。彼女はむくっと上半身を起こして、もう眠気はとっくにさめているであろう顔をこちらに向けた。


凛々しく顔が整っており、都会の学生から見ると違和感におもってしまう色染めの髪がとても似合っていた。目は先ほどよりも眠そうではなかったが、どこかしゃっきとせず、ぼんやりとこちらを見ていた。


「…誰?」


えー、転校生といっても二日目だ…よ…。


日向は考える。二日目でも顔は覚えられないのも当然なのだろうか。それとも同じクラスだからさすがにないのか。


「なんで、黙るの?」


「む!?あ、いや、転校生の周知について考えておりました」


「ああ、転校生か…いつの間に!?」


「いや、さすがに存在ぐらいは知っているだろ!」


おも

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