第15話 帝都病院②
【 サイド -R- 】
――身体検査を終えたルカは付き添いの男性看護師からあることを言われる。
「
「え、えぇっと……そう、ですね」
「もう少し食事をとった方がいいですよ。健康的な体にするために」
にこやかに告げられた言葉は少し気味が悪い。
自分以外の女性にも微々たる注意をしていることから、この看護師は少々健康面に対して厳しいのだろう。
(でも、意外と言われないんだ)
ルカは国民的アイドルのリーダーだ。
最初こそ病院内ではちょっとした騒ぎだったが今は病院独特の静けさに戻っている。
「では次に行きますね」
多分だが自分達の検査は結構時間がかかったと思う。順番のズレは仕方ないと男性看護師は何も気にすることなく言った。
自分は次の検査に行く前にお手洗いに行こうと思い看護師に告げる。
「なるべく早く戻ってきてくださいね」
ここだけやけに威圧的なのは気のせいだろうか。
♂♀
「なんだかなぁ……」
お手洗いを済ませてから私は病院内での不気味な雰囲気が怖かった。
どんな人も決まって笑顔。時折不調そうな患者さんを見かけるが決まって看護師や事務員の人が見つけてどこかへ連れて行く。
「?」
お手洗いから出てみればすぐ近くで他のグループが身体検査の方へ入って行った。同時に自分のグループが部屋から出ていき、あの男性看護師が辺りを見渡している。
きっと私を探しているんだ。
(正直怖い……)
本当なら戻らなければならないけど、私は黙ってトイレに戻った。
普通のトイレじゃなくて多目的トイレの方。だって普通のトイレだと押し入ってきそうで。
「
隣の女子トイレからの声に思わず震える。怒声に似た声は次第になくなり、遂には。
「まったく、だから大勢の監視は面倒だって言ったんだ」
過ぎ去る足音に安堵するも、苛立つ男性看護師は何かを言った。
(監視?)
そういえば彼は自分達の検査後にカルテらしき紙に何かを記載していた。
チェックにしてはやけに筆跡音が凄く、また自分達に幾つかの質問と注意をしていた。
(この病院、何かありそう)
こっそり多目的トイレから出ようとすると、また誰かの声がした。
「あの…もし……は能力…?」
「なぜ…そう……か?」
(アヤちゃん?)
アヤちゃんと誰かの声がした。でも会話は途切れ途切れで聞き取りづらい。
上を見れば少し穴が開いているから、そこから会話が聞こえるんだ。
「怪し…噂……」
「病院………墓地…変死体…見つか……ほ…くが……」
「……そ……戻った…が……看護師……怖く……」
ここで分かるのは彼女たちも看護師が怖いらしい。
そして怪しい噂と病院、墓地、変死体の言葉。
「カホちゃんとサナちゃん、大丈夫かな」
こんな怪しい病院だと残る二人も心配だ。でも、アヤちゃんが無事なのはよかった。
でもこれから一人でどうすればいいんだろう?
♂♀
――ルカはこっそり外へ出る。行きかうのは患者と付き添いの看護師が数名いるくらいだ。
戻るべき場所だったはずの診察室の前には誰もいない。今がチャンスだと思いルカはそのまま廊下を歩く。このまま外に出ればよかったが、残る三人が気がかりなので外には出なかった。一階は多くの診療科があるため下手に診療室前へ行けば気づかれてしまうだろう。ルカは隠れながら二階へ向かう。
(心電図室とリハビリテーション科に入院病棟への渡り廊下があるんだ)
検査の一つである心電図室にはカホがいたはず。もしくは時間差で他のグループが行っているかもしれない。
こっそり階段から覗くと、年配の方を中心としたリハビリを行っていた。
「なにしてんだ?」
「ひゃいッ」
急に背後から声を掛けられ思わず変な声を出してしまった。
と、背後から声をかけたのはジャージ姿の男だった。彼はマスクをしており、また背丈は十分なほど高い。
「嬢ちゃんは確かアイドルグループの…?」
「あ、あの…できれば内緒に――「そこにいるのは誰ですか?」
リハビリテーション室から看護師がやってくる。このままでは―――
「おっと、すいません看護師さん。ちょいと散歩していまして」
「……そうですか。なるべく早く病室へ戻ってくださいね」
驚くことに、男はルカを背に隠して看護師から守ってくれたではないか。
看護師が去ると、男は言った。
「確か今日は若い女性を集めた健康診断だったか?
悪いことは言わない。早く病院から出ろ」
「でも、まだ友達がここにいるんです」
「……わかった。俺も付いて行くよ」
男は自ら【
彼はちょっとした事故でこの病院に入院しており、また看護師たちの様子が変だと気付いていた。
「入院病棟ならまだ大丈夫だ。こっちに来てくれ」
須賀はルカを連れて自身の病室へ向かう。
彼のいる病室にはベッドが4つおいてあり、また部屋には彼一人だけだ。
ベッドに腰掛ける彼と対面になるように、自分もベッドへ座る。
「この病院には、狂った奴がいる」
須賀はこの病院には狂った女の医者がちょうど2年前にやってきたという。
現在は院長にまで上り詰めたその女は、ある企画を院内に提案したという。
「女性のみの健康診断を行い、最も健康な女を院長室まで連れて行くこと」
院長――
須賀はその会話を偶然耳にし、健康診断の件を合わせ疑問に思っていたのだ。
「も、最も健康な女ですか?」
「連中は嬢ちゃんを含め、今回参加する女性を狙っている。
最も、ということもあって大体1人か2人程度だろうな」
ルカは混乱する中で必死に考える。
確か自分は体重が少ないと指摘を受けたので最も健康ではないだろうと踏んで、一緒に来ていたカホやサナを思い出せば、サナは視力が悪く、カホは日頃の不摂生が問題で健康面を気にしていたような――
(アヤちゃん…!)
友人の中で最も健康的な人といえばアヤだ。
彼女は視力、聴力以外に身体的に問題は無いのだ。
「アヤちゃんが連れていかれちゃう!」
慌てるルカに
「そのアヤっていう子が嬢ちゃんの友人の中で一番健康ってことでいいのか?」
「はい」
「厄介だな…。もし今の時点で全ての診断が終われば連れていかれるかもしれない」
「そんな……あ!」
ルカはあることを思い出した。
最初に看護師たちが言っていた、最後に全員が婦人科へ向かう流れだということを。
「あの、検査の最後に婦人科へ行くことになっているんです」
「婦人科?」
本来なら検査の項目に婦人科はない。そこに行けば何かわかるかもしれない。
「……ちょうど入院続きで暇していた所だ。協力するよ」
ルカは思いもよらない協力者に感謝を述べたのであった。
二人は今の内にどうするかを相談し、行動に移すのであった。
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