第9話 何かが起こる前触れ?
煌めく照明と透き通る歌声。
溢れる観客を前に華やかな笑顔を見せる帝都有名アイドル――
その舞台の関係者席で見つめるアヤ、カホ、サナ。三人はルカに関係者として招待された。
「そういえばアヤさんってさ、ルカさんに会うの初めてだったよね?」
「そうそう。あの時はお互い物凄く緊張してたよ」
アヤとルカは初めて会うということで自己紹介をしていたのだが、どちらも緊張していてぎこちなかったのを覚えている。
因みにサナは過去にメディア関係でルカと対談をしていたのだが。
「トップアイドルとはいえ、この観客数は凄いよね」
帝都で一番広いホールを貸し切りしてもDREAMのファンはホール席を裕に超える。
ゆえに抽選の形で満場御礼だ。
歌い、踊り、笑顔を見せる彼女たち。そんな様子にカホは。
「……ルカって無理してそうだよね」
駅が爆破された事件ではDREAMのマネージャーが死んだ。
マスメディアは能力者による殺人事件として報道された。だが事務所はマネージャーの死をどうでもいいと思っていたのかすぐに別のマネージャーが就任した。
同時に彼女たちの活動も休むことなく出演している。
「うわ……それブラックじゃん」
「フリー小説家の私を見習えってもんだ」
色とりどりのスポットライトが観客席を照らす。
ラストスパートではルカの歌声と共にメンバーも踊る。
「有難うございました!」
その声はどこまでも届く。響き渡る声援と歓喜の声がホール内に響く。
夢のようなひと時は幕を閉じる。三人は席から立ちあがり拍手を送った。
「――このあとDREAMによる握手会を行います。整理券を持って順次お並びください」
アナウンスが鳴った途端大半の観客が整理券片手に握手会へ向かう。
三人はそのまま外へ出てこの後どうするか悩んでいると。
「姐さん!」
「
ライダージャケットに黒のマスクのいで立ちで現れたのは志田マサキ。
すぐ傍には大型バイクがあり、どうやら彼はカホの姿を見かけてやって来たそうだ。
「偶然っすね!そちらのお二人は姐さんの友人ですか?」
「そうだよ。今から帰るところ」
「そっすか」
アヤとサナからすれば非常に忠犬に見えた。カホに対して嬉しそうにするマサキに少なからず敵ではないと解釈したのだ。
「ここ最近危ない連中がたむろしてます。できる限り注意して帰宅してください」
「わざわざ忠告有難う」
じゃ、俺は帰ります。
マサキが去るとカホは疲れた様子で肩を落とす。
なんでもあの性格が好きになれないそうだ。
「熱い男は好きじゃないの」
「でも礼儀正しい人だったよ?恰好が不良なだけで」
「そうそう。カホさんに対して忠犬だったよ。不良だけど」
だが彼の言ったことが気がかりだ。
「危ない連中ね……何かあれば警察が動くと思うけど」
「でも警察はあの事件の調査で忙しいと思うし」
「まぁ今後私たちがなんとかしないと―――!」
握手会へ並ぶファンを見つめる。するとサナが急に駆け出した。
「サナ?」
「ちょっと、どうしたのよ!」
ファンの人混みをかき分けサナは走る。その目はある一点を見つめた。
「――先生!」
人混みに浮く一つの影。サナの声を何故か周りの人混みは気が付かない。
「私です先生!先生!」
叫んでも影は反応しない。幻覚なのだろうか。でも、あの影は―――
「おっと、危ないぞ」
「!」
腕を引っ張られ、気が付くとサナはちょうど階段の前にいた。
あと一歩踏み込んでいたら階段から落ちてしまっただろう。
「あんたは図書館で……」
「そ。知り合いと一緒にこのホールに来たんだけど、飽きたから帰るつもりだったんだ」
煙草を咥えてサナを助けのは
サナは有難うと礼を言う。
「司書さんはいるの?」
「? まぁ一緒にいるけど……」
「じゃぁ司書さんに明日会いに行くって伝えといてよ」
「今は会わないの?」
コウジは首を横に振る。どうやらこの後用事があるそうで。
「それに、あんまり過去に固執しすぎると返って悲しむのは自分だから気を付けて」
「……どういうこと?」
「サナ!急にどうしたのよ!」
コウジが去ったあと、追いかけに来てくれた二人の姿が。
サナは何でもないと返すも人混みの中辺りを見渡した。
(いない……)
追い求めた影は無く、ただ人の群れだけが三人の横を通り過ぎるのであった。
♂♀
「列を乱さず順次お並びください」
拡声器の声と長打の列にスタッフは大忙しだ。
机越しに座るアイドルの握手会はこんなにも大変だと思い知らされる。
大人たちに紛れ一番長打の列に並ぶライは目当てのルカの握手会へ向かう。
「いつも応援してくれてありがとうございます」
(嗚呼ルカさん!今日もお美しい!)
差し出された手の感覚を記憶に残して会場を去る。
高揚と刹那のひと時を邪魔されるわけにはいかない。
(そのためには)
自分以外のルカファンを徹底的に潰すしかない。
歪んだ想いは留まることを知らず。またライにとってルカが全てなのだ。
「――先生!」
「?」
殺気立つ自身が現実に戻った瞬間、先生と叫び走る女が通り過ぎた。
自身には関係ないことなのに、なぜか気になった。
(誰か探しているのか?)
どう捉えても女の声はどこか悲痛な声だった。
「軽く手伝うか」
――ふわり。
視界をジャッジし、女が追い求めている相手をサーチする。
視線、姿、周りの様子を脳内の中で様々な情報を得る。ついでに女とは関係ない人は女を認識しないように気配を遮断。
「?」
そこでふと、あることに気が付く。
(僕の能力が利かない奴等がいる……!)
一体誰だ?
「――サナ!一体どうしたのよ!」
何処かで声がした。その声は嫌でも忘れない―――忌々しいあの女の声!
「
女を心配するように声をかける。いつ見ても忌々しい女だこと!
ライは女がカホと一緒に帰る様子を見ながら、自身も帰宅するのであった。
――それぞれが交差する中、果たしてどのような結果を迎え入れるのだろうか。
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