第8話 隠し事は無用らしい


駅から降り、そこから車がようやく通れる道を歩くこと5分。

まるで物語に出てくるような洋館といっても過言ではないその屋敷はどこか見覚えがあるような気がした。


「やっと来てくれた。心配したんだよ」


屋敷の門前で一人の男が安心した様子で此方を見た。


「貴方が私たちを呼んだ人?」


アヤの問いかけに彼は肯定する。


「どうぞこちらへ。彼女も待っているだろう」


彼女とは、おそらく四人目だろう。三人は彼の後を付いて行く。

通された部屋はアンティーク調で統一された家具が置かれており、その中央には夢に見たテーブルと五つの椅子。

その一つに座るのは誰もが見知った彼女。


「わーぉ。トップアイドルのリーダーだなんてたまげたもんだ」

「なんでルカが……」

「ほんとにDREAMドリームのルカさんじゃん」


アイドルグループDREAMリーダーのルカこと西八尋にしやひろルカに三人は口々に言う。

彼女もカホの姿を見るや、その華奢な体は勢いよくカホに抱き着いた。


「怖かったよぉ~」

「一体何があったの」

「いきなり駅は爆発するし知らない男がマネージャーを殺して……」


事の一連を話すルカ。

震える体をあやすようにカホは何も言わず抱きしめる。今にも泣きそうな彼女はよくここまで耐えたものだ。


「でも、どうしてカホちゃんたちもここにいるの?」

「――それは私から話そう」


そこで青年が声を発した。

そして、青年は全員を席に座るように言った。


「では改めまして。私は帝都都心の8割の土地を管理する笠原かさはらリュウキだ」


端正な顔立ちと儚さを持つ青年―笠原リュウキ―

彼は地主以外にもとある研究を行っているという。


「私はキミ達にある頼み事をしたくてここに呼んだんだ」

「頼み事?」


リュウキは懐からある写真を取り出す。その写真にはスクランブル交差点で高らかに嗤う一人の女の姿が。


「彼女の名はルイラ・レイラ。

3年前のスクランブル交差点で都内能力者事件を引き起こした張本人だ」


都内能力者事件は3年前に突然町中で爆破が起きた最悪の事件。

当時アヤとカホはちょうど事件の傍に、ルカとサナは現場にはいなかった。


「この事件をきっかけに、多くの後天性能力者が現れた。中には能力に耐えきれず死んだ者もいる」


そして、もう一つの写真が。


「これは以前からメディアに取り上げられている謎の変死体の写真だ」


死体は四肢が全て逆方向へと捩じられており、また目は異常に充血している。

これは前にサナがアヤと話した内容だ。警察も犯人は能力者ではないかと踏んでいる。


「この事件にルイラ・レイラが関わっていると私は思っている。

だが、私だけでは真相にたどり着けるか……」


そこで。

リュウキは四人を見つめる。その目は何かを知っているようで。


「私の代わりに、この事件の真相を探ってはくれないだろうか?」

「何故私たちに?」

「キミ達が能力者であると私は知っている。キミ達にしか頼めないんだ」


アヤ、カホ、サナ、ルカの四人は困惑した。

全員が呼ばれた理由は事件の真相を探ってほしいこと。

そして何より―――


「全員が……能力者」



♂♀



リュウキは呼び寄せた彼女たちに情報交換という形で交流することを提案した。

自分を含め5つの椅子に座る彼女たち。あとで紅茶を持ってきてくれたカノンも自己紹介をする。


「私はこの屋敷の近くのBARを経営している越智相おちあいカノンよ。何か情報が欲しいならいつでも寄ってちょうだい」


そう言ってカノンは部屋を出た。これからBARの準備をするため帰るそうだ。


「では、各自知り合いのようだが先に能力について説明してくれると有難い」


流石に自身が能力者であることを隠していたようだ。情報屋のカノン曰く全員が優秀な能力を持っていることには変わりないそうだが。

リュウキの右横に座るカホへ視線を向けると彼女は少しずつ言葉を発した。


「私は……【操作そうさ】っていう能力を持ってる」


カホの能力は【操作】

操作とは、様々なモノ、及び物体を操作することが出来る。

例えば先ほど列車での戦いでサナが創り出した剣を操ることが出来た。また、応用と集中力を極めれば分子レベルの物体も操作することが出来るが相当な技量と精神力を必要とする。


「私は【予測よそく】よ。でも、未来予知ではないことは確かなの」


続いてアヤの能力は【予測】

これはある程度の仮説と予測する対象の動きを見極めなければならない欠点がある。

アヤの場合頭の回転が良く、加えて観察能力が備わっているので問題は無いと言えよう。


「私は【ひつ】だよ。職業柄役に立っているけど」


サナの能力は【筆】

職業柄小説家である彼女は所持している古びたペンで物事を書き連ねることで文章を具現化できる。欠点を挙げるとするなら文章は現実的で確証のもてる文章でなければならない。


「私は……」


最後に声を出すルカ。しかし彼女はどこか言いたくなさそうにしている。

そんな彼女に察してか、カホが心配そうに声をかけた。


「無理して言わなくてもいいよ?」

「でも、折角皆が教えてくれたのに私だけ言わないなんて不公平だよ」

「……なにか、言いたくないことでもあるのかい?」


俯くルカ。

そういえばアヤが思い出したようにこう言った。


「そういえばルカさんの声ってどこか惹かれる所があるよね」


それは偶然か無意識か。

アヤの【予測】は思いもしない方向へ見事的中してしまった。


「私の能力は【こえ】なの」


その【声】は震えていた。


「歌声とか声量も含めて私の声は遠くまで届くけど、元々この能力は生まれつきなの」


ルカは先天性能力者である。

ルイラ・レイラによる都内能力者事件で能力者になった者ではなく、先天性能力者は生まれつき備わった能力である。

と、サナが。


「あ、そうなの?私も3年前の事件以前の能力者だから同じだね」

「ほ、ほんと?」

「うん」


サナも同じく先天性能力者ということから、ルカは緊張の糸が解けたように安堵した。

コンプレックスでもあるのだろうか。リュウキは思った。


「キミ達の能力は大体把握できた。生まれも環境も違うキミ達は必然的に出会ったといえよう」


――


リュウキはそう確信づけた。


「どうかこの事件を、ルイラ・レイラを止めてほしい」


全ては帝都の為に。

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