第13話 脅威

――昨夜スクランブル交差点にて能力者と思われる二足歩行の獣が近隣住民の車を荒し、警察との攻防の末、行方が分からずと政府は発表しており―――


――また、住民が撮影した動画から一匹の白狼はくろうがいたとされ、警察は今後獣の能力者の追跡を試みるらしく―――



TVの放送でアナウンサーが焦った様子で報道している。

映された二足歩行の獣と一匹の白狼の動画に奥向江おくむかえカホは思わず凝視した。


「連絡しなきゃ」


ゲームコントローラーを置いてすぐさまメンバーに連絡を入れる。

真っ先に返信をくれたのは岩鍛代いわきたいアヤだ。


「スクランブル交差点でのニュース見た?」

『うん。まさか能力者が出るなんて……。それに、あの白狼は一体なんだったの?』


二足歩行の獣は能力者で間違いないだろう。しかし白狼に至っては謎のまま。

カホはSNSを駆使して情報を集める。どれも白狼についての情報が無さ過ぎる。


『サナとルカは?』

「まったく返信が来ないの。多分仕事かも」


どちらも既読はついていない。そのため二人だけで会うしかなかった。

外に出てみれば景色は空を隠す雲。何か良くないことが起きそうで不安だ。


「――待った?」

「ううん。大丈夫だよ」


ビル街のカフェで待ち合わせをした二人はそのまま町を探索することにした。

町は相変わらず喧噪と賑わいであふれかえっている。大通りでは車が多く、また商店街も人は多い。カホとアヤは事件現場付近まで向かうことにした。そこでは未だに警察が現場を調べており、KEEP・OUTの帯が貼られている。


「すみませんがこれ以上の立ち入りは禁止しております」


女性警官が二人を止める。

どこか疲れているように見えた女性にアヤは辺りの光景を目にとどめる。


「何か?」

「……少しだけ」


目で感じた情報で予測してみる。おそらく女性警官は近くで車へ向かう背の高い男性警官と共に警察署へ帰るようだ。

また現場にあるKEEP・OUTの帯は、明日には剥がされると予測する。


「なるほどね。でも明日は都合が悪いんだ」


カホはゲーム配信の都合で明日は外出できないそうだ。


「他にも何か視ることはできた?」

「いや……特に。あくまで予測だから行動一つで先が変わるかもしれない」


あくまで予測。

欠点を挙げるとするなら

アヤは持ち前の知識と頭の回転力でなんとか予測を立てて行動するが、予測成功確率は100%とはいかない。


「せめて白狼について何か情報が欲しいな」


ニュースで取り上げられた白狼は確かに二足歩行の獣と対立していた。

獣は車をなぎ倒し住民を襲うが、白狼はまるで何かを守るようにしていた。


「味方だといいけど」



♂♀



コンクリートで構成される寂れたビルの中にて。

ルイラ・レイラをはじめとする多くの者達がその場に集う。


「おや、意外と集まるもんだねぇ」


煙管きせるをふかし紫煙しえんを纏う。

顔が見えぬ者、異国の服装を纏う者、女か男か分からぬ者など。その中には先日スクランブル交差点で派手に暴れた獣もいた。


「アタシはこの世界が嫌いだよ」


周りにいる連中は皆同じだ。

人を嫌い人を踏みにじり、能力者だけの世界こそ新たなる世界だと思っている。


「警察がとことん調べようとしてくるが……まぁ知ったこっちゃぁないさ」


曇天どんてんのさなか、我々は宣戦布告といこうじゃないか。


「さぁお前たち。人を嫌い人を踏みにじる者達よ」


ルイラの背後で連中は嗤った。

それは日常が狂いだす瞬間であり、またアヤ、カホ、サナ、ルカにとって新たな脅威になるだろう。


「戦争を始めようじゃないか」

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