第16話 帝都病院③
【 サイド -K- 】
日頃の不摂生が原因で寝不足や体重の増減が激しいという理由で看護師たちに酷く注意された。それでもゲーマーとして頑張らないといけないので、こればかりはしょうがないと思う。
(――それにしても)
この病院の廊下は、こんなにも不気味だっただろうか?
「
「あ、はい!」
次の検査に行く前に看護師の胸ポケットにある端末が鳴った。
「はい、此方は順調に――え?いなくなった?」
カホはどうしたのかと看護師を見た。
するとみるみる顔色を変える看護師は舌打ちし、加えて苛立ったような様子でこう言った。
「皆さんはここで待機していてください。私は今すぐ逃げた参加者を探しますので」
場所は2階のエントランス近く。
自分を含めたメンバーはそこで待機することになったのだ。
(逃げた…?一体どういうこと?)
今看護師がいない状況に何かがおかしいと感じたカホは少し場を離れることにした。
自分が看護師に探されるかもしれないことを考慮して、メンバーの数名にお手洗いに行くと伝えた。
(逃げたってことは何かがあったってことでしょ?
でも適当に歩き回ったらその内見つかりそう……)
二階は病棟に繋がる通路とリハビリテーション科もあった。
カホが取った行動は一度1階に戻ることだった。
こっそり階段を下りた先には数名の事務員や看護師がなにやら話をしている。
「まだ見つからないのか?これじゃ院長に怒られる」
「院長も困った人だ。
なんでも一番健康的な人を院長室へ連れて行かなきゃならないからな」
「今の所
(え…?)
物陰に隠れながら会話を耳にしたが、何故アヤのことを?
それに一番健康的な人を院長室へ連れて行くなんて聞いていない。
「逃げた人以外にも
アイドルグループのリーダーだから手加減しなきゃ」
「もし我々の会話が外部に漏れてしまえば――」
その時、一人の従業員がグルンッと階段の方へ顔を向けた。
「……どうかしました?」
「いえ、気のせいでした。引き続き逃げた人を探しましょう」
去る従業員立ちの足音が消えた後、カホは運よく隠れることが出来たので心臓がバクバクと煩くて仕方がない。
(アヤが危ない!)
これからどうするか必死に思考を巡らす。
現状このまま廊下に出れば従業員に見つかるだろう。しかし院内を調べるには動くしかない。
(あれは…ドア?)
階段を下りたすぐ近くには中庭が見渡せるテラスがあった。まだ日中のため一般向けにドアを開放しているのですぐに行けば誰にも気づかれないだろう。
「行くしかない、か……」
カホは能力を使い気配を薄くなるように操作することで、誰にも気づかれずテラスのドアへと向かう。
いざドアをくぐれば中庭は思ったより広く、リハビリや散歩に利用する患者もいるだろう。できるだけ気配を消しつつ歩いていると。
「――カホさん?」
「!」
丁度中庭の茂みに隠れるようにいたのは、まさかのサナだった。
思わず声が出そうになったが、サナがカホの口元へと手で防ぐ。
「サナ…貴女……」
よく見れば彼女の左目に包帯が巻かれていた。
「視力検査の後に手術室でやられてね……」
♂♀
――サナは視力検査の結果、看護師から非常に視力が悪いと診断され、また看護師からにこやかに告げられた。
「菊羽田さん、このあと貴方だけ別の検査を受けてもらいますね」
運が悪いことにサナだけが視力検査の結果が悪かったのだ。
付き添いの看護師の手元には何故か錠剤らしきものが握られている。別の看護師たちに腕を掴まれ無理矢理錠剤を飲まされる。
「ごほッ」
「すぐに準備しますので、このまま2階へ行きましょうか」
その後は覚えていない。
ただ気が付けば手術室のような場所で左目を弄られたためすぐさま能力を使ってここまで逃げた。
「――幸い失明に至らなかったけど、碌に機能しないと思う」
「そんな…!」
なんとルカ以外の逃げた参加者はサナだったのだ。
しかし彼女は左目の機能が半分ほど失われたため逃げ出すにも困難だろう。
「他の二人は?」
「分からない。それにルカも逃げたらしいの」
カホは自分が知る事情を全て話す。
連中は一番健康体であるアヤを狙っていること、そしてルカも逃げたため行方が分からないまま。
「なるほどね。悪いけど、一緒に着いてきてくれないかな?」
「勿論。それに何かあったら二人で対処できそうだしね」
二人は中庭で共に行動することにした。
このまま中庭にいてもよかったが、肝心の二人が心配なのでカホの能力で気配を薄くするため操作する。
「1階は危険かも。2階はどうかな?」
「んー…2階だと私が逃げたことがバレてしまう恐れもあるから厄介だ」
1階だと多くの診療科や事務職員が多くいるし、2階だと最悪サナが手術室へ再び連行されそうだ。
「「――入院病棟!」」
どうやらお互い意見が一致したようだ。入院病棟では必要最低限の見回りだけだ。
入院病棟へ行くには一度病院内へ戻り階段を上ってリハビリセンターの前を通らなければならない。
「行くよ」
「あぁ」
二人は入院病棟へ向かうため足を進めるのであった。
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