課金脳
前則呈里
PRESS ANY BUTTON
家で一人パソコンを使っていると時々音が聞こえてくる。
とても小さくて、何の音かもわからないけれど、静かに囁くような音が確かに聞こえてくる。
僕は原因もわからず気にも留めていなかったけれど、本当はよく考えるべきだったのだ。
音が聞こえるのなら、その発信源となるものが必ずいるということを。
身の回りの世界に対して無関心であることがどれだけ罪深いことなのか、身をもって知ることになる前に。
大学二年の夏休みだというのに、僕のやることと言えばバイトとネットサーフィンだけだった。
下品な口から文句を垂れ流すおっさんに向けて、やりたくもない営業スマイルを浮かべている僕は、なんてことはない、家に帰ればそいつらと同じように、会ったことも無い人間に向かって文句を垂れているのだ。
だが、最近はその数少ない僕の安らぎの場まで失われようとしている。
パソコンを起動して、インターネットブラウザを開くと音が聞こえてくるのだ。
音楽を聴いていても、動画を見ていても、さらには、その場から離れてもパソコン上でウィンドウが開かれている限り、ぼそぼそとノイズ混じりの耳障りな音が聞こえ続けるのだ。
行きつけの耳鼻科の先生もお手上げで、パソコンを使わない方が良いと言われたが、冗談じゃない。
ただでさえロクな趣味も持っておらず、ネットだけを楽しみに生きているのに、それまで奪われたら僕の抱えているストレスをどこへ捨てればよいと言うのだ。
まぁ、いうほどストレス解消できているとも思えないけど。
むしろ溜まってる方が多いのかもしれない。
ともかく、音を無視してネットを使い続けること数週間、ある日を境にその音はぱたりと聞こえなくなった。
音が聞こえなくなる直前、ずっとノイズだけだった音から突然はっきりとした、何かの合図のような男の声が聞こえた気がする。
その声は、別れを惜しむように静かに、そして強い決意を示すようにハッキリとこう言った。
「第一のゲーム、スタートだ」
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