非対称型サバイバル⑦

あるはずのない口から男の声が話しかけてくる。

「なるほどな。昨日邪魔したのはお前か。今にも消え入りそうないい顔してるじゃねぇか」

「お前…喋れたのか?というかお前は何者なんだ?」

僕は言葉を精一杯絞り出す。

「何者って言われても、お前がこのゲームの迷い人を助ける側のプレイヤーなら、俺は殺す側のプレイヤー、なんだろうな」

ゲーム、ゲームだと。

何を言っているんだこいつは。

「この世界で死んだ人は現実でも死んじまうんだぞ。それをゲームってお前、自分が何をしているのかわかってんのか!」

実際に人が死んでいるのにゲームって、こいつはそのことに気づいていないのか?

「わかってるよ、そんなこと。ちゃんとニュースは見てるしな。だからこそ俺は全力で楽しんでるんじゃないか。彼ら彼女らの尊い命が報われるよう、全身全霊を込めてこのゲームを楽しみ尽しているのさ」

「…人間していいの発想じゃない」

「それを決めるのはお前じゃない。それに、そもそも俺だって四六時中そんなサイコパスみたいなこと考えていたわけじゃなかったんだぜ。たまたま足が付かない方法を手に入れたからやってるだけさ。ただの興味本位でやってるだけさ」

――自分にできることをやってるだけさ。

そう言い残すと怪物の体はちりとなって消えていった。


次の日にも画面の中には今までと同じように少女が立っていた。

そしてその後ろには、またしても『唯一の恣意しい』が立っていた。

僕は迷わず五万円のボタンを押し、『圧縮熱光線ビレット』を呼び出した。

予想通り、『圧縮熱光線ビレット』によって『唯一の恣意』は一瞬にして蒸発した。

少女はお礼を言うとその場から消えていった。

命を救うことができて一安心、と言いたいところだが、こんなことではいつまでたっても根本的な解決ができないことは明白だった。

「いつまでこんなことが続くんだろう」

「ご心配なく。今回のゲームはこれにて終了だ」

僕がこぼした言葉に返事をするようにどこからか言葉が返ってきた。

次の瞬間、視界が光に包まれる。

気が付くと僕は身に覚えのない広い空間にいた。


見たところ美術館、いや神殿か祭壇といった方がいいか?

四隅には白い柱がそびえ立ち、それらに支えられた天井は、円形の吹き抜けから暖かい日の光を取り入れていた。

日の光で元気に育った芝生が地面に生い茂っている。

そして、芝生が僕のよく知るものと同じであることに安心した。

この神殿は山の頂上にあるのか、柱の向こうには果てしない空のみが広がっていた。

こうして周りを見てみると、内装はとても簡素で、何というかバス停のベンチのような、あくまで一時的な待機場所としての利用を目的としているような神殿だった。

だが、僕が一番初めに目に入ったのは神殿の様相などではなく、同じ空間にいた僕以外の三人だった。

正確には一人と――一人の人間と使だった。


一人の男は紛れもなく人間だと言える。

僕と同じように突然この空間へやってきたのだろう、地面にしりもちをついたままキョロキョロと周りを見て驚いていた。

二羽の天使は部屋の中央で僕とその男の間に入るようにした立っていた。

天使たちは人間離れした白い髪と白い肌をしており、ギリシャ神話ででてくるような白いローブに身を包んでいた。

頭に光の輪を浮かべ、背中からは大きな翼を生やしている。

無論それらが作りものだと疑うこともできたが、僕は彼らが天使であることに疑いは持てなかった。

その容姿、突然ワープした現状、この五日間の出来事と、信じられないことが立て続けに起こったのだから、天使が現れても信じるしかあるまい。

一方は威厳ある男性、もう一方は優しい笑みを浮かべた女性だった(天使は両性具有だと聞いたことがあるが、見た目の上では性別があるように見える)。

そして、戸惑っている僕に対して男と天使が口を開く。

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