非対称型サバイバル⑧
「お疲れ、今回結果的には負けてしまったが、そんなに気を落とすことは無い。まだまだこれから逆転していけばいいさ」
座り伏した僕に目線を合わせて彼は言う。
「今回は私の責任も大きい。本当はもっと君に協力してやりたかったんだがな。だが安心してくれ、次回からは私も協力できるようになる。だからどうかこの後のことも耐えてくれ。そして次のゲームで必ず勝とう」
負けた?責任?協力する?
次々とわけのわからないことを話す天使に対し、僕はどう返すこともできず、ただ呆然としてしまっていた。
「…ああそうか。君はまだ自分の役割を理解しきれていないんだな。じゃあ、その辺りについてももう一人のプレイヤーと一緒に話そうか。おいベムル、これまでのことを説明するから惟成を連れて来てくれ」
「はーい。ほら行くよ、惟成くん。キリツが君の知りたいことを話してくれるって」
天使たちが惟成と呼ぶ男性は、ぼさぼさの髪をかきむしりながらとても嫌そうな剣幕で立ち上がると、ゆっくりこちらを睨みつける。
そんな惟成をお構いなしにキリツと呼ばれた男の天使が話始める。
「それじゃ改めて。初めまして誠修に惟成。私は誠修の担当であるキリツ。そして、あっちの天使が惟成の担当の…」
「ベムルでーす。惟成くん、これからよろしくね」
二羽の天使はそれぞれの人間の前で軽く会釈をし、続ける。
「君たちもおおよその検討はついてるだろうが、この五日間君たちのパソコン上で起こっていた出来事、ゲームを計画したのは私達だ」
「そうでーす!私達があなた達のパソコンにアプリを仕込みました。惟成くんには、他人の精神をパソコンの世界に連れ込んで怪物に襲わせるアプリ、誠修くんには、その怪物から人々を救うアプリを入れさせてもらいました」
「二人ともスタートの合図が聞こえたはずだ。その日から六日間が開催期間となっていた」
「いつも使っているパソコンから見える非日常の世界。そこに映る非現実的光景。その世界にどれだけ早く順応し、自分の役割を把握できるか、それが今回のゲームの肝だったってわけ」
「…なるほどね。俺が人殺しで遊ぶのも、そこの正義の味方くんが俺の邪魔をするのも、全てはテンシ様の掌の上だったわけだ。なんか拍子抜けしたな」
僕の他にもう一人いた人間、惟成が初めて口を開く。
その声を聞いた瞬間僕の中の疑惑が確信に変わる。
「お前ッ!」
今まで誰に対して感じたことのない感情が溢れる。
許せない、許してはならない敵を目の前にした僕を怒りと憎悪が。
「何だよ、今更気づいたのか、そんなに血相変えちゃって。それで、気づいたらどうする?殴り合いでもするか?」
そう言って悪びれることも無くふらふらとファイティングポーズをとる彼の態度に、なおさら怒りが増す。
「悪びれないさ、悪いと思ってないからね」
惟成に殴りかかろうとする僕の肩にキリツが手を当てる。
「誠修、君の怒るのももっともだ。だが、彼を今殴っても何も解決しない。君たちが勝敗をつけられるのは、自らの力で相手を屈服させることができるのはゲーム上だけだ。君は今そういう立場にあるんだ」
「…こいつを止めるにはお前らのゲームに乗るしかないってことか」
「そうだ」
「じゃあ…、説明の邪魔をして悪かったな。説明を続けてくれ」
キリツは僕の肩から手を離し、説明を続ける。
「………偽善者が」
「まぁ、説明といっても今回のゲームについてはさっき話した内容が全てだ。今後もいつ、どこで、どんなゲームをするかは両者ともに一切伝えない。ただ、ゲーム開始の合図が聞こえたら身の回りに何かしらの変化が起こるはずだ。その変化を見逃さず、自らの役割を把握して、目的を果たせば勝ちだ」
「何だそりゃ。フワッとしすぎだろ」
こいつのことは許せないが、言ってることには一理ある。
ゲームの内容やルールも教えられないんじゃ、どうすれば勝てるのかもわからない。
「心配することは無いよ。惟成くんは今回やったようにやりたいことをやれば良いんだよ」
「やりたいことって、じゃあ次回も適当にその辺のやつ殺しとけば勝ちなのか?」
「そうそう。もし君が人を殺せると思ったらその気持ちに従えばいいんだよ。要は私達が道具を渡すから、君たちはその道具で何ができるか考えて、その目的を達成できれば勝ちってこと」
「じゃあ楽勝じゃーん」
「そうとも限らないさ。ゲームの内容が必ずしも他人を巻き込むものとは限らないし、両者は必ず相手の目的を妨害できるようにゲームバランスは調整されている。だから誠修。君が惟成の目的を阻止したいと願えばその力は必ず君の手に渡る」
「…わかった」
つまり、僕は惟成の目的を達成させないことを目的にすればいいわけだ。
あいつが人を殺そうとしたらそれを止める。
絶対に、絶対に止めてやる。
「よし。では、最後になるが…」
「待ってくれ。最後って、まだ聞きたいことは沢山あるぞ。そもそもお前たちは何者なんだ?ここはどこなんだ?」
「お!お前いいこときくね。俺もそのへん気になってたんだ」
「その質問には答えることはできない。というか、君達はそんなこと知る必要はない。ただゲームに勝つことだけを考えていればいい」
キリツは手元で何やら光り輝く板のようなものを操作しながら、片手間に僕らの疑問に答える。
「でもそんなに気になるんなら、この場所のことだけは教えてあげる」
ベムルは今までの優しさを含んだ笑顔とは全く別の笑顔で答える。
「ここは、お仕置き部屋でーす」
僕はその天使の笑顔を見てパソコンの中に居た怪物たちの姿を思い出した。
あの怪物たちに顔が付いていたのなら、やつらが人間を引き裂くときにはきっとこんな顔をしていたのだろう。
その邪悪な笑みを最後に僕の意識は途切れた。
途切れ行く意識の中一つの声が僕の頭に伝わる。
「罰ゲーム、スタートだ」
課金脳 前則呈里 @azisan
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