~異世界帰りの私と10の禁忌魔術~

@imkov

第1話 日常

 少女は夢を見ていた。


 彼女、レイラには生みの親の記憶が殆どない。


 唯一あるのは今日のように時折夢で見る黒いシルエットだけだ。


 夢ではこの影はレイラをなで、彼女へ話しかける。




「私はおまえを誇りに思う」と、






 こうして彼女は目を覚ます。竹山家の長女にして帝蜀高校2年、竹山レイラとして。










 ――――帝蜀ていしょく市 センタービル地下――――


 暗闇の中に小さな穴が生まれた。


 それは瞬く間に大きくなり、人間一人が通れるほどの大きさとなった。


 そこから生まれる一つの人影。


 その者の顔には狐の仮面がつけられており、その手には10枚の光るメダルが握られていた。


<傀儡兵ドールオペレーション>


 人影がそう唱えると地面から三体の土人形が生まれた。


 人影はそのくねくねしている人形に自らの持つメダルを投げると、人形は軍服を着た人間の男女の姿になった。


 一人は筋肉質で野蛮な顔つきをした男でもう一人の男は細身で怜悧な表情をしている。


 三人の中で唯一の女性はセクシーな肢体を晒した美女だ。


 彼らは人影に跪く。人影の命令を待つために。




「かねてからの計画を実行します」


「御意」




 人影の命令に彼らは声をそろえ、散会した。




「これから楽しくなりそうです」




 人影は不気味に笑うと手を振って穴を消し、自らの姿も消した。








 ――――帝蜀市某所裏路地――――


 暗がりにふらつく青年が現れた。


 彼はまるで酔うかのように壁から壁へ伝っていくと座り込み、脇腹を押さえた。




「彼女になんとしても会わなくては……」




 そういう彼の手には血がにじんでいた。


















 ――――帝蜀高校4/8――――


 突然だが、皆さんは勇者というものをご存じだろうか。


 国民的人気RPGのように人類の剣として戦う人だと納得してもらえると思う。


 蒲原友輝かんばらともきは『勇者』だった。


 彼らは1年前の今日、高校2年生になったその日。


 まだお互いの名前も顔もよく知らない状態で2-3のクラスメイト40人は異世界へと飛ばされた。




 魔王と戦う戦力として。




 最初は憤った。


 しかし、元の世界への帰還というエサの誘惑とクラスのノリのいい連中が乗り気になってしまったせいで成り行きで協力することになってしまった。


 そして友輝たちはなんとか元の世界へ帰ってくることができた。


 留年という代償をもって


 友輝たちが向こうで過ごした8ヶ月間はこちらでも同じだけ経過しており、その間行方不明だった彼らは4ヶ月の復帰期間をもってまた2年生をすることになった。










 今日はその初日。


 始業式の場である。


 校長先生の祝辞が体育館に響いている。




「……して、今年は諸事情により本来なら新三年生となるはずだったのに、二年生をする方々がいます。


 彼らは


 ですので、我々のサポートだけでなく生徒の皆さんの目線で助けてあげてください。


 それではこれで祝辞を終わります」
















 クラスメイトたちは教室へと戻ってきた。


 全員が着席すると、 高身長でがたいのいい気のいい感じの人物が教室に入ってくる。




「今日からおまえたちの担任をすることになった、高木健吾たかぎけんごだ。


 担当は数学で、行方不明になっていたおまえたちの心のサポートも担当する。


 お前たちの事・情・についても、上の方々から聞いているから安心してくれ」




 新しい担任はどこかで見た気もするが、担当してもらうのは初めてだ。


 心のサポートをするということは、この先生はスクールカウンセラーに近い存在なのだろう。


 自分たちの事・情・を知ってくれるのはうれしい。




「それでは、これから学級委員をきめる。希望者は手を挙げてくれ。」




 クラスの皆は『勇者』としてリーダー的存在だった友輝の方を見る。


 だが、ここはもう少し様子を見ることにした。


 学級委員は男女一人ずつ選ばれる。


 やるにしても女子の担当者を見てからでも問題ない。




 そのとき真っ白な細い手が上がった。


 クラスのざわめきの中心を見ると、宝石を幻視した。


 透き通るような白磁の肌、プラチナブロンドの髪、ほのかに染まる朱色の頬と桜色の唇、吸い込まれそうな深い翠色の瞳。


 町ですれ違う10人中9人が振り返るほどの美貌を持った彼女は竹山たけやまレイラ。


 彼女は声を上げる。




「私がやってもいいですか」


「わかった。それでは、男子の立候補者はまだ出ないようなので、まず女子の信任投票しようと思う。


 竹山レイラを学級委員と認める者は挙手してくれ」




 健吾の発言により、クラスの全員の手が上がる。




「反対者がいないようなので、女子の学級委員は竹山さんに任せようと思う。


 次に男子の学級委員を決めたい。立候補者は手を挙げてくれ」




 そう言って手を挙げたのは友輝だけだった。


 当然であろう、きれいな女性と一緒にいたいのは男の性だが、それでも実際働くとなると気遅れしてしまう。


 そして、健吾はたっぷり10秒はかぞえると




「では、男子の学級委員を決める。学級委員を蒲原友輝に任せたい者は挙手してくれ」




 女子は普通に手を挙げたが、


 ほかの男子は苦々しい表情をしながらも、全員挙手した。


 学級委員は友輝たちがやることになった。


 健吾は、友輝とレイラに話しかける。




「二人はこれからの抱負を話してくれ」


「はい、このクラスは例の件の影響で約一年間学習がストップしています。個人的にはそこを仲間同士で支え合って、みんなの今後の人生をよりよいものにできるようにしていです。宜しくお願いします」


「私は、先生のサポートとして、皆さんの精神面を生徒目線からケアしていきたいです。宜しくお願いします」


「二人ともありがとう。これからの生活にこの抱負を生かしてくれ。


 それでは、次に文化委員をきめる。立候補者は……」




 その後は大した問題も起きず、今日の学校は解散となった。

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