第6話 強襲

――――帝蜀市ていしょくし美術館――――

美術館長の森光大吾もりみつだいごは日課の館内散策をしていると美術館の目玉展示である聖獣の絵画の前に立つ男を見つけ、声をかけた。


「気になりますかな?」

「ええ、神々しい獣たち。その素晴らしい姿を描いたこの絵、まるでそれぞれに魂が宿っているようではありませんか?」

「確かに、獰猛に吠える白虎、重厚な玄武、大暴れする青龍、大きな翼を広げる朱雀。

そしてそれらを束ねるように鎮座する麒麟。

この時代に残る美術品には人々を感動させる魅力のようなものがあるのでしょうなぁ」

「なるほど……」


男はおもむろに腕時計をショーケースに向けると小さな機械が射出される。


「な、なにをやっているのですか?」

「あまり近づかないでください。危ないですよ」

「へ?」


するといきなりショーケースが割れた。

警報が鳴り響き、周囲の人間が逃げ始める。

それに一瞥もせず男は中に乗り込み、絵画を手にしているアタッシュケースにしまい込み始めた。

回収し終わると男はその場を立ち去ろうとする。


「ま、待て!なぜ俺の美術館から美術品を奪う?」


男は大吾に向け振り返ると、


「私ののためですよ。この絵はいい、素晴らしい材料になる。」

「ふざけるな!何のために必要か知らんが強奪なんて方法をとるのだまともな用途じゃないはず。

俺は何としてもおまえを……!」


銃声が鳴り響き、大吾は自らの胸部を見ると穴が開いたスーツが穴から朱に染まっていく。

男の手には硝煙が昇る拳銃が握られていた。


「この絵画を回収した時点で貴方は不要。邪魔をするなら排除させてもらいます。

今までの保管、感謝しますよ」


微笑みかける男を最後に大吾の意識は消えた。







――――帝蜀市美術館 外部――――


「クソッ、大男が暴れた件といいなんでこんな物騒な事件が多いんだ!」


内藤薫ないとうかおる警部は穏やかでない事件に悪態をつく。

すると部下が声をかけた。


「警部、人影が見えました!」

「ヨシ!犯人だった場合人質を取っているかもしれない。

素早く開放を促し、取り押さえるぞ」


機動隊が壁を作り備える。

すると美術館の内部から警備員が姿を現した。


「おーい、助けてくれー」

「わかった、早くこっちに入ってこーい」


警備員は機動隊の中に入れられる。

簡易テントの中に入ると警備員は薫警部に話しかけられた。


「あなたはこの美術館の警備員か?中で何があったんです?」

「わからないんです、美術品が奪われた警報が鳴って現場に行ったらスーツを着た男に襲われたので逃げたんですが何が何だか……」

「わかりました。ご協力感謝します。

最後に名前を教えてもらっていいですか?」

「は、はい間宮信二まみやしんじと申します。

あ、あのこれから私はどうすれば?」

「申し訳ないがしばらくここで待機してもらいます。

事件後お聞きしたいこともありますので」


すると、警部の部下が問いこんできた。


「警部!犯人らしき人影が!」

「何?!すぐに行く!」


警部が走っていくと目線の先には狐の仮面をした男が拳銃をこちらに向ける姿があった。


「お前が犯人か、おとなしく銃を下ろし、投降しろ!」

「断る。そんなことより早く私の周りから退避しなさい」


そのまま進み続ける男を見て警部はやきもきし、


「警部!どうしますか?」

「撃て、」

「え?」

「ガス弾を撃て!責任は俺がとる!」

「わ、わかりました!」


止まらない男にこえがかけられた。


「動くな!それ以上近づけば撃つぞ!」

「好きなように撃てばいい。どうせ無意味ですからね」

「ッ、総員!射撃開始!」


ガス弾が男に向かうと


「無駄だ」


波動のようなものが男から飛び出す。

するとガス弾の動きは停止し、薫警部含めた機動隊すらも動くことはできなかった。


「??」

「『戻れ』」


その声に呼応するかのようにガス弾は機動隊のほうを向き、はじかれるようにして放たれた。

機動隊の盾もはじかれ、催涙ガスが機動隊の中に広がる。

薫警部たちはむせ返り前を見ることができない。


「無駄だといったでしょう。どきなさい」


男の言葉に機動隊は後ずさりし、道を開けた。

男は隊員たちに一瞥もせず横を歩いた。

その時、


「クッ、クソ!逃がすかぁ!」


薫警部が男に突進し、男を転倒させる。

警部は仮面に手をかけ、、


「ヨシ、捕まえた!こんなしゃれた仮面なんかつけやがって。

素顔を見せてもらおうかな」


仮面がはがされると、男の素顔が見えた。



だが、男は猿轡をかまされている。


「??」

「残念でしたね。彼は私の指示で動いていただけ。

あなたの行動のおかげで私はゆっくり逃げさせてもらいました」


警部の手元の仮面からはさっきまでの男と同じ声が出されている。


「あ!」


警部はハッとしたように猿轡を解く。

そして猿轡が解けた男に話しかけた。


「お前の名前は何だ?」

「お、俺の名前は間宮信二だ。」

「やっぱり……お前たち、早く来い!」


いまだもだえる部下たちに声をかけ、テントに走り出す。

テントの垂れ幕が取れた時、薫警部の目には無人の内部が移っていた。






――――帝蜀市 某所地下室――――

男は地下室に入ると奥のほうへ声をかけた。


「ナーシャ、これを例の機械にかけてください。」


すると青いワンピースを着た赤毛の女性が現れた。

とても美しく、美少女といっても過言ではない彼女だがひときわ目を引くのはそこではなく、頭頂部に存在する猫のような耳だろう。


「わかりました。目的のものは回収できたのですね。」


ナーシャと呼ばれた女性は受け取ったアタッシュケースから絵画を取り出すと近くにある装置に設置し、レバーを下げる。


「ええ、これで計画の第一段階は完遂です。

あ、魔王様はどうしてますか?」

「しっかり働いていると思いますよ。あの方のかねてからの要望ですからね」

「ほぅそれは重畳」


男は近くの事務用デスクに近づき、引き出しから仮面を取り出し、つけた。

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