第8話 絶望
――――帝蜀市 『ホール』 4/20――――
加藤有樹は駐車場のゲートの警備員をしていた。
だが、そもそも来客者が少ないこの『ホール』で彼の仕事は少なく、欠伸をかみ殺すしかなかった。
するとダークスーツを着た金髪の男性が訪ねてきた。
「ここが、『勇者』たちがいるところか?
「はぁ?お前何言ってんの?ゆうしゃ?
ああ、でもなんか最近高校生たちがここ来てるんだよね。なんでだろ」
「ありがとう。では、もはやお前は不要だな」
「え、何を……!?」
有樹が自分の下半身を見るとみたこともない形状の植物が巻き付かれていた。
「何だ!これは!」
「これはお前の命を刈り取るツタ、<ペルセポネ>お前たち人間から養分を吸い取り、成長する。
まあこの個体は調整した奴だからお前から吸い取れなくなったら枯れるようになっているんだがな。
やれやれ、俺は暗殺よりこんな感じの強襲の方が得意なんだが。おっと、もう聞く余裕はないか」
ツタはすでに有樹の全身まで及んでおり、立ち去る男の後ろには有樹の断末魔が響いていた。
「よし、これでOK、データはしっかりとれた。試作品はもう少しだな」
伊藤哲也は『ホール』の研究員として雇われていた。
そもそもこの『ホール』は公共の研究機関として作られていたが成果が出ず、研究チームの解体が予定されていた。
だが『勇者』と名乗る少年たちの出現で変わった。
恐ろしい未知の力、だが同時に魅力的である力。国の上層部は秘密裏にその力を取り込もうと躍起になっていた。そのため、優秀だったが仕事がなかった彼が雇われた。
今、彼はその力を持つ少年たちのリーダー格、蒲原友輝の協力を元に彼らの能力を抑制するための機器の試作品を製作していた。
「やっと完成したのか。なかなか時間がかかるんだな」
「何と言ってもこれが初めてのことだからな。これでも結構早いほうなんだぞ」
「ハハハそうか、まあ俺も仕事に戻ることにするかな」
「頑張ってくれよ、佐藤警備主任」
「おう、元軍人の実力を見せてやる。まあそもそも俺が出るまでもないだろうけどな」
佐藤が出て行きすぐに自らの背後に立つ気配を感じ哲也は声をかける。
「なんだ?タバコでも忘れたか?そこのデスクに置いてあるぞ」
「あ……が…………」
「何ふざけてるんだそんな苦しそうな声だして……?!」
振り向いた哲也は恐ろしい光景を見た。決して狭くない研究室を埋め尽くす謎の植物。その植物はまるで触手のように周りの研究員に襲いかかり、動くどころか話すことができないほど縛っている。中には先ほどまで会話していた佐藤までおり、苦痛に顔尾をゆがませている。
「どうなってんだよ……
クソ、今のうちに速く逃げないと!」
すると一人の男が現れた。彼が歩くと植物は避け襲うそぶりは全く見せない。その異様な光景に腰を抜かし、哲也は動けなかった。
「一人だけ残せと入ったが、これはかなりひどいな。まあいい。そこの奴、『アーテー』はどこにある?」
「ッ!それは渡す訳には、い、いかないぞ」
その答えを聞き、男は嘲るように言う。
「そうか。お前が教えてくれるならお前を生かしておいてもいいと思ったんだがな。別にお前に聞かなくてもいいんだ。代わりにそこに転がっている奴らに聞いてもいいんだからな。代わりにお前がこいつらの苗床となるか?」
「ひっ!」
哲也は目を泳がすと、その視線の先を見た男は頷いた。男が視線の先には明らかに厳重な金庫が存在していた。男は金庫の扉を掴むと腕を引く。扉は簡単に外れ、音を立てて床に落ちる。中にはUSBメモリと小さなカードの束が置かれていた。
「これが『アーテー』の実物のデータか。これは役に立ちそうだ」
「な、なぜ『アーテー』のことを知っている!これは危険すぎて箝口令を敷いたはずだ!」
「フン、なんでだろうな。もしかして裏切り者がいるのかもな。まあ俺には関係ないが」
男は哲也の話を流すと、弄んでいたカードの束から一枚抜き、哲也へ投げつける。カードが哲也に刺さると哲也の体は痙攣しだした。
「ウッ!こ……これは……なん……で……いかして……くれ…………るって」
「さあどうだったかな?まあ死ぬと決まったわけではないからいいだろ」
「ふざ……けるn……うわあ!」
哲也の体中から黒い液体が噴出し、体を覆うと肉体を作り替えていった。
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