第10話 捜査

影は友輝の首を絞め、その命を奪おうとしていた。


「ウ……グ……」


友輝はもう息も絶え絶えで今にも意識を失いそうだ。


「キャー!誰か!誰か来て!」


優花が悲鳴を上げるが答えるものはない。

友輝はなんとか両手を動かし、影の手を掴み引き剥がそうとするが力が入りきらず無駄に終わった。

そのとき、影がビクッと痙攣し動きを止めた。

その後ろに立つ姿を見た友輝は安心し話しかけた。


「いいところで来ますね。健吾先生」

「おう、なんか呼ばれている気がしたんでな」


そこには影の頭を殴ったであろう、角が黒に染まった消化器を持った彼らの担任、高木健吾がいた。


「ところでなんだこいつ。グネグネして気持ち悪い」

「僕らも分かりません。部屋に入ったらいきなり襲ってきて……」

「なるほどな。こいつが……おっと?なんだ?」


健吾の視線の先、影が倒れるところ。影はビクビクと痙攣し、少しずつ黒色が抜け始めた。

うつ伏せに倒れるその背中に向け影が集中し、背の一点からカードが排出されてきた。

そのすべてが排出され、もの凄い勢いで飛び出したとき、影の正体が現れた。

5人は息をのんだ。


「う、ウーン、何があったんだ?」

「あ、あんたが……」

「え?ああ友輝くん。さっきね……あ!」


影の正体――研究員、伊藤哲也――は驚いたように叫び、研究室に入る。

何かを探し、それでも見つけられなかったようで肩を落とし帰ってきた哲也にレイラは質問する。


「なぜ貴方があの黒い化け物になっていたのですか?」

「黒い化け物?ああ、『シャドウ』か」

「『シャドウ』?」

「ああ、君や友輝くんたちの魔法を使う力を解析してできた『アーテー』から生まれるものだな。『アーテー』についてだが、それを人間や他の生物に差すと『シャドウ』ができる。『シャドウ』は基本的に無差別に人を襲い、殺害する。その狂ったような行動から俺たち研究員は『シャドウ』を生み出すアイテムを狂気の神から名前をとって『アーテー』と名付けた。一応エネルギー源として魔力をためる機能と『シャドウ』がその対象の命令を守るといった利点はあるが、当然そんなものを使うわけにはいかないから上司から処分の許可が出るまでここで保管していたんだ」

「そんな恐ろしいものを……」

「悪いが俺は天才じゃない。俺ら研究員も人間だ。失敗作ぐらいできるさ」


周りにはなんともいえない空気が漂っていた。










――――帝蜀市 『ホール』 4/20――――

2人の男が入り口から入りながら会話をしている。周囲には制服を着た警官や鑑識課の人間がおり、証拠を集めている。


「それで被害者は?」

「警備員20人、清掃員が5人、研究員12人です。ですが遺体は上がっていないので推定になりますが」

「生存者はいるのか?」

「はい、研究員が1名、が1名ですね。あと、何人か近くの高校生たちがいましたがこちらは被害が全くなかったそうなので事件には関わりないかと」

「待ってくれ。高校生?ここは国の研究施設なんかもしてたろ?なんで高校生なんかがいる?」

「なんでも、リハビリのためだそうです。ほら、何ヶ月か前、行方不明だった高校生たちがいたじゃないですか。その影響で体力付けや、そのことについてのさらなる事情聴取なんかの必要がでて、政府が実験のためにつくった広い体育館のような部屋があるここが選ばれたそうです」

「なるほどな。じゃあ清掃員は?ここには海外で軍人もやっていた人間がいたはずだろ?そんなやつが死んでるのになんで清掃員なんか……」

「詳しいですね。まあ報告書を読んでいれば当然ですか。清掃員は異変を察知してトイレにこもっていたらしく、無事だったそうです」

「そうか、研究員の方は?」

「伊藤哲也という名前で、眠っていて事件については何も知らないそうです」

「ほう、あいつが……」

「どうされました?」

「いや、何でもない」

「それでどうしますか?」

「まず清掃員に話を聞こうか」

「了解です」


2人は荒れ果てている廊下を通り、唯一きれいであろう部屋に入った。

中には白髪交じりの、初老にさしかかった女性が座っていた。

入室した2人の男は警察手帳を取り出し、話し始める。


「帝蜀署の内藤薫だ」

「同じく犾堂ごんどう勝俊かつとしです」

「お疲れ様です。ここで清掃員をしている手鞠黎てまりれ綾香あやかです」


薫警部は壁にもたれかかり、勝俊は綾香の対面に座り、質問を始めた。


「早速ですが貴方にお聞きしたいことがあります。一体何があったんですか?」

「それが、私は同僚の敦哉さんたちと雑談をしていたのですが、いきなりたくさんのツタが廊下をすごい速度で進んできたんですよ。これは危ない、と思って私たちは逃げていたのですがまず敦哉さんが転んでしまい、足を取られてしまい、捕まってしまったんです。他の方も次々ツタに捕まりました。私はなんとか捕まらずに済みましたが、他に誰もいなくなり、怖くなってしまいました。なんとか通路にトイレを見つけ、個室に入ってなんとかツタを撃退していると突然動きをとめ、なぜか粒子状になり、消滅しました。助かったのか、と思い施設の中をさまよっているとあなた方警察の方に保護された。というわけです」

「なるほど。ありがとうございます。またお聞きすることもあるでしょう。宜しくお願いします」


勝俊は立ち上がろうとするが、綾香が止める。


「すいません。敦哉さんたちはどうなったんですか?」

「それですが……」


勝俊は薫警部の方を見た。すると薫警部は頷きいてかえした。


「高橋敦哉さん、岡田百合子さん、白木横雲さん、刷網愛さん、谷風幽鬼さんは恐らく亡くなっています」

「お、恐らくってなんですか?」

「最近、この周辺で不可解なことが発生していましてね。今までの常識では考えられない事件が起きたとき、亡くなった方の遺体がなくなるんですよ。あ、このことは秘密なのであまり口外視しないでくださいね」

「な、なるほど、分かりました」


綾香は信じられないといった様子だがとりあえず納得したことを示す。


「これでいいですか?」

「はい、ありがとうございます」


勝俊は離席し、薫警部とともに退室した。


「警部殿、何か気になることはありましたか?」

「いや、特にない。まあ、」

「そうですか」

「それで、何も知らないという話だが一応、研究員の方へも話を聞きに行くか」

「分かりました、研究員の方は研究室にいるようなので……こっちですね」


しばらく歩き、2人は研究室に足を踏み入れた。部屋の中は一目で何者かに荒らされたと分かるほど散らかっていた。

モニターは割れ、明らかに最新の設備も破壊されている。

奇跡的に無事だったいくつかののいすに何人かの人が座り、話し合っている様子に気づいた2人はその中の白衣を着た男に近づき、話し始める。


「すまない。警察のものだが、研究員というのは?」

「僕です。あなたは……!?」

「久しぶりだな」


哲也が薫警部を見たとき、驚いた様子を見せ、薫警部はニヤリと笑った。


「え、ええ。高校ぶりですかね。先輩」

「まさかお前がここで働いているとはな。人づてに理系の大学にいったとは聞いていたが」

「それが普通の企業に就職したんですが、推薦され……」

「ゴホン、警部殿久しぶりに友人にあったのは分かりますが、しっかり事情聴取しましょうよ」

「おっとすまない」

「ごめんなさい」


勝俊の咳払いに盛り上がっていた2人は気を取り直し、事情聴取を始める。

薫警部は


「それで、お前は本当になんともなかったのか?それにそこにいる高校生たちも。ここがこんなに荒れているんだ」

「それについてなんですが……」


哲也は勝俊を見た。薫警部はそれを察し、


「すまないが、ちょっと退席してくれないか」

「えぇ?まあいいですけどしっかりきいておいてくださいね」

「分かってるよ」


勝俊はそばにいた他の警察官を連れ、部屋から出て行った。

それを確認し、薫警部が哲也に向き合うと話し始めた。


「それで、何があったんだ?」

「まず、彼らを紹介させてもらっていいですか?」

「ああいいが。そういえば俺も自己紹介していなかったな。帝蜀署の内藤薫だ」


哲也は周りにいる生徒たちを紹介し始めた。

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