日常に絶えず降りかかる驚異と複雑で深い人間ドラマ
- ★★★ Excellent!!!
王都に、日常に不意に降り掛かってくる『赤竜』という脅威。
長年これに立ち向かってきた男の第二の人生を描いた冒険ファンタジー
……タイトルと紹介文を読んで、そんな印象を持っていました。
読み始めるまでは。
実際には、ものすごく深く、愛情や信念に溢れた人間ドラマで、読み進めるうちにグイグイと引き込まれ、この世界の人々にとって、油断ならぬ圧倒的な驚異であるはずの『赤竜』さえも、どこか彩りの一部であるかのような錯覚を覚えました。
親子、師弟、友人、相棒、同僚、後輩……
つくづく人間の関係性の多様さ、複雑さを感じさせられます。
紹介文にある『ままならぬ人生を愚直に生き抜く男』
この表現が主人公ジェラベルドにピッタリなんです。器用なわけでもなく、自分をゴリ押しするでもなく、それでもやっぱり人間味のある欲求や願望は持っていて、何かを諦めつつ、割り切りつつも、人生にささやかな幸せを見出そうとします。
生きている以上、乗り越えなければいけないこと、どうしようもないこと、大事なものを失うこと、叶わない望み、と次から次へと色んな問題や課題が降り掛かってきたりするものです。
度々襲いかかってくる『赤竜』はこれらの象徴かのようでした。
深手の傷に、どこかやりきれない想い。過ぎゆく時間の中で見つけてゆく彩り。
是非とも、ジェラベルドの肩をポンと叩いて、共にこの時間を眺めてみて欲しいです。