ファンタジーや異世界という舞台が苦手という理由で避けてしまうには、あまりに惜しいヒューマンドラマ。人と人の関係性やそれによる心の葛藤が好きならぜひ読んでいただきたいです。
舞台こそは剣と魔法の世界で、起こる事象や事件の原因はファンタジーならではですが、物語の主軸は登場人物の関係や心を主体とした人生のお話。家族の物語ですね。
主要な全員にどこかに欠点があって、こういう所さえなければなあ……という残念な部分と、愛があるゆえの行動で上手くいかない不器用さが、もどかしくもありリアリティがあり。
現在の話と、過去の話が交互に出て来る構成ですが、話が進むたびに登場人物に深みが増して、最初はあまり好ましくないと思っていたキャラも、過去を知り、その行動の理由を知ると、納得がいってしまい、人間的魅力が増して好きになっていく。
傷なしでは生きられないから、その傷をどう扱っていくか、どう捉えていくか。これからも続く彼らの人生を応援せずにはいられない、心に響く人間ドラマをぜひに。
王都に、日常に不意に降り掛かってくる『赤竜』という脅威。
長年これに立ち向かってきた男の第二の人生を描いた冒険ファンタジー
……タイトルと紹介文を読んで、そんな印象を持っていました。
読み始めるまでは。
実際には、ものすごく深く、愛情や信念に溢れた人間ドラマで、読み進めるうちにグイグイと引き込まれ、この世界の人々にとって、油断ならぬ圧倒的な驚異であるはずの『赤竜』さえも、どこか彩りの一部であるかのような錯覚を覚えました。
親子、師弟、友人、相棒、同僚、後輩……
つくづく人間の関係性の多様さ、複雑さを感じさせられます。
紹介文にある『ままならぬ人生を愚直に生き抜く男』
この表現が主人公ジェラベルドにピッタリなんです。器用なわけでもなく、自分をゴリ押しするでもなく、それでもやっぱり人間味のある欲求や願望は持っていて、何かを諦めつつ、割り切りつつも、人生にささやかな幸せを見出そうとします。
生きている以上、乗り越えなければいけないこと、どうしようもないこと、大事なものを失うこと、叶わない望み、と次から次へと色んな問題や課題が降り掛かってきたりするものです。
度々襲いかかってくる『赤竜』はこれらの象徴かのようでした。
深手の傷に、どこかやりきれない想い。過ぎゆく時間の中で見つけてゆく彩り。
是非とも、ジェラベルドの肩をポンと叩いて、共にこの時間を眺めてみて欲しいです。
タイトルから咄嗟に想像するのは、いかにもファンタジーらしい竜と剣士の戦い。
この物語はそこから始まり、主人公ジェラベルドも彼を取り巻く人々も、常にそこに関わって生きています。
ですが、何より魅力的なのはそこに生きる人々の姿であり、人生であり、彼らが語る言葉の数々です。
一見さらりと語られる彼らの人生は、波乱万丈で苦難の連続。でも地に足を着けて生きる彼等は、自分の意志や選択を決して他人には委ねません。
頑固で意地っ張りのようでもありますが、しかしだからこそ、そこに確かな信頼や愛情が生まれる様は、思わず「こんな風に生きてみたい」と思わせる力強さと温かさを持っています。
他者との関係に思い悩み、あるいは振り回されて、自分が自分の望むように生きられないと感じている人に、ぜひゆっくりと読んで欲しい物語です。
赤竜に襲われる都で、討伐団の主力として団長と共に皆を率いていたジェラベルド。
竜との戦いで深傷を負ったことで引退を決意し、別の道を歩もうと考え始めたところから物語は始まります。
美しく鮮やかな世界の描写と、登場する人々の心の動きが本当に細やかに描かれていて、どちらかといえば剣と魔法の冒険ファンタジーかな、と思って読み始めたのですが、あまりに心揺さぶられる人間ドラマの物語でした。
ジェラベルドが相手を想うあまりに自分の想いを封じ込め、さらには初めは自分を蔑んでいた別の相手とやがて心を交わすようになるその過程が丁寧に丁寧に語られます。
亡き妻の最後の告白の本当の意味を知った時、久しぶりに物語を読んでいて不覚にも泣いてしまいました。最後は爽やかに、それでもやっぱり少し私には切なく思えました。
あまりにも優しすぎる元剣士と彼が大切にする人たちとの物語。
おすすめです!