深く人を想うということ。

 赤竜に襲われる都で、討伐団の主力として団長と共に皆を率いていたジェラベルド。
 竜との戦いで深傷を負ったことで引退を決意し、別の道を歩もうと考え始めたところから物語は始まります。

 美しく鮮やかな世界の描写と、登場する人々の心の動きが本当に細やかに描かれていて、どちらかといえば剣と魔法の冒険ファンタジーかな、と思って読み始めたのですが、あまりに心揺さぶられる人間ドラマの物語でした。

 ジェラベルドが相手を想うあまりに自分の想いを封じ込め、さらには初めは自分を蔑んでいた別の相手とやがて心を交わすようになるその過程が丁寧に丁寧に語られます。
 亡き妻の最後の告白の本当の意味を知った時、久しぶりに物語を読んでいて不覚にも泣いてしまいました。最後は爽やかに、それでもやっぱり少し私には切なく思えました。

 あまりにも優しすぎる元剣士と彼が大切にする人たちとの物語。
 おすすめです!

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