飲(読)まなきゃ勿体ない! 王道ファンタジーのお手本!

 王道ファンタジーを描く……。これがいかに困難な事であるか、経験者は骨身に染みて解っている事だろう。今回読者諸兄に紹介させて頂くのは、この難題を見事に克服した作品である。


 この作品にはどぎつい暴力・残虐・性描写が見られない。独特の癖や無駄な修飾もなく、滑らかで丁寧な万人受けする文体である。

 又、「!」や「――」等の約物の使い方もこなれていて、文章の流れに変化を加えている事が判るはずだ。

 しかし舌(目)の肥えた読者諸兄ならば、入念な原材料の選定に似た言葉選びと、丹念な発酵過程を思わせる字配りに心底唸らされるだろう。

 加えて、ドラマやアニメを彷彿とさせるエピソード分割も作品の没入度を高めるのに一役買っており、ライトな読者層にも味わって貰いたいとの作者の配慮が伝わってくる。


 ケルト神話をベースとした設定は壮大であり、市井の人々の細かい描写と相まって、「実在した歴史」と錯覚してしまう程だ。飲(読)み口がマイルドな分、その熟成された世界観には驚きを禁じ得ない。

 因みに、作中に登場するモンスターの名前が記憶にない場合は一度調べてみることをお勧めする。作者の茶目っ気に出会えるかも知れない。


 北国の厳然たる風土で紡がれる少年と「師」の成長の物語は、まさに穏やかで力強いグレーンウヰスキーを想起させる。

 読者諸兄も良質な本格王道ファンタジー作品を味わって頂きたい。


     吟遊詩人の詩と調べに思いを馳せながら、乾杯――

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