(紅藍様の作品)『彼には不釣り合いな冒険』vs『いわゆる「同じ顔」事件:羽二重四季緒の訂正推理』

   

【本格推理小説】

『彼には不釣り合いな冒険』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882220330



【なんちゃってミステリ】

『いわゆる「同じ顔」事件:羽二重四季緒の訂正推理』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890026876



【本格推理小説とは、かくあるべき】

本格推理小説とは、主として殺人事件を扱い、その中に存在する謎を論理的に解明するものを指すと考えています。

日常の謎が、だから本格推理ではないというわけではありませんが、『「同じ顔」事件』はある種のメタミステリなので、本格とは言い難いでしょう。




【私からの一言】

 まず『彼には不釣り合いな冒険』は長編です。それもWEB小説でよく長編扱いされるラノベ基準の長編ではなく、一般的な文庫本で言うところの長編です。

 193,765文字ですから、有名な小説で例えると、夏目漱石の『それから』や谷崎潤一郎の『痴人の愛』と同じくらいの文字数。推理小説で言うならば、江戸川乱歩の『悪魔の紋章』より長くて『吸血鬼』より短い、という程度です。

 何故そんな話から始めたかと言うと、本来これはWEB小説というより紙の本で読むべき作品なのだろう、と感じたからでした。


 孤島の特殊な館で起こる殺人事件。主人公がその舞台となる島を訪れるところから、本編はスタートします。必然的に最初は、その島や館に関する配置や構造などの説明が出てくるので、物語が動き出す前にまず読者が頭に叩き込まないといけない情報量も多くなります。

 紙の本として読む商業作品の推理小説ならば、まあ普通にあることですし、特に何も感じなかったかもしれませんが……。WEB小説としては、これ、読みづらさに繋がるのですね。私自身、WEBで推理小説を書く場合に「ここは後々、事件の舞台となる洋館であり、部屋の配置などが重要になってくるから……」と序盤で構造説明を詰め込むこともありましたから、似たようなパターンを読者目線でどう感じるのか、というのはとても勉強になりました。


 そんな感じで「面白そうな推理小説だけれど読みづらい作品」というのが、序盤の印象。そしてようやく物語にのめり込み始めたところで、ガラリと変わって、過去の別の事件の話に飛んでしまいます。古典的な本格派の長編推理小説に、学園ミステリ短編が挟まる構成、という感じでしょうか。

 もちろん無関係な話ではないから挿入されているのでしょうが……。主人公格の二人以外は、登場人物も重なりません。ただでさえ推理小説は登場人物が多いものなのに、また一気に増えるのか! そう思うと、ここも読みづらさとして感じてしまいました。

 単調な構成よりも、少しくらい複雑にした方が面白くなるのは確かなのでしょう。でも、その分だけ読みづらくなる、ということを考えると、難しいポイントですね。

 この短編ミステリの挿入は二回あり、二度目は少し慣れましたが、一度目は「早く本編に戻してくれ」という気持ちで、本当にヤキモキしました。


 ……と、こうして書いていくと、ネガティブな点ばかり列挙している感じになってしまうのですが。

 別にこの作品を貶したいわけではないですし、楽しめなかったと言うつもりもありません。

 推理小説を好きな読者には、ぜひ読んでもらいたい作品だと思いました。



 続いて『いわゆる「同じ顔」事件:羽二重四季緒の訂正推理』、14,953文字の短編です。謎の提示と推理による解答がシンプルにまとまっていて、面白かったです! あくまでも個人的な感想ですが、今回の参加作品の中で一番面白かった、と言ってもいいくらいです。

 作者様の「本格推理小説とは、かくあるべき」を考えると、「なんちゃってミステリ」になるのも納得ですが……。私自身の「本格推理小説とは」でいったら、これも『彼には不釣り合いな冒険』と同じくらい、あるいはそれ以上に本格推理小説と呼べるかもしれません。

   

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