第7話 昇格試験
翌朝、寝る前に考えていたチーズオムレツを朝食に食べ、アランに絶賛してもらった。
我ながら今日の焼き加減はフワトロで絶妙だったと満足している。
アランは昨日着ていたポンチョ風フードが気に入ったのか、今日も着ている。
ちゃんと浄化魔法掛けてあるから汚れは落ちているので問題は無い。
準備を済ませてギルドへ行くと、妙に騒ついていた。
クエストボードの前で依頼を見ていると声が掛けられた。
「お~い、そこの笑い上戸の兄ちゃん! あんたに見せたかったんだよ!」
見覚えのある男だった、確かシモンだったかな?
世紀末男こと、シャルルと同じパーティの人だ。
そのシモンがイケメンのお兄さんの腕を引っ張って連れて来た。
どこかで見た様な…?
「やっぱりわかんねぇか!? 昨日のシャルルだよ! スゲェ変わっただろ!?」
「!!」
「えぇ~っ!?」
衝撃を受けた、アランも思わず声を上げるくらい。
驚いて固まる私達をチラッと見て照れ臭そうに目を伏せる姿は役者をやってますと言われたら信じるレベルだ。
《before》
側頭部刈り込み、幅広モヒカンで髪を立ててる。
薄汚れてて無精髭あり。
トゲ付きショルダーガード。
袖が破れて薄汚れた麻の赤黒い服。
薄汚れた黒い革パンツ。
《after》
下ろしているので顎までの普通のロン毛に見える。
髭はキレイに剃られている。
新人冒険者風のこ綺麗な生成りの麻のシャツに革の胸当て。
洗われた黒い革パンツ。
お風呂に入って念入りに洗ったのか汚れが落ちてワントーン明るくなった肌。
凄い、身嗜みだけでここまで人間変われるものなんだ…。
確かに髪の色や目の色は同じだし。
「凄い変身だ…、それで言葉遣いや振る舞いをきちんとすればモテるだろうな」
感心して呟くと、シャルルがピクリと反応した。
「そ、そうかな…、うへへへ」
あ、ダメだ、中身が残念なままだった…。
さっきは引っ張られて体勢崩してたから気付かなかったけど、猫背だしガニ股だしガッカリポイントがありすぎる。
機嫌の良さそうなシャルルを放置してアランと相談しながらオーク肉を入手するクエストを選んだ。
アランのレベルが上がったからイケるだろうと判断したから。
依頼札をボードから外して受付カウンターに並んで出し、冒険者証を見せると二十歳前後でデキる女のオーラを放つ受付嬢から待ったが掛かった。
「お二人には騎士団のロルジュ様より飛び級昇格試験の推薦がされているので、これより試験を受けて頂きます」
え~と、ロルジュ…ロルジュ…あっ、セドリックの事か。
昨日ランクの低さに驚いていたっけ、指名依頼する時にランクが低いと都合が悪いのかもしれない。
「わかった、アランもいいかな?」
「うん! 自分の実力がどれくらいになってるか知りたい!」
振り返って問うと、とても元気の良い返事が返ってきた。
ギルドマスターの権限でC級までは昇格させられるとの事。
そんな訳で試験場にはギルドマスターと副ギルドマスターが揃っていた。
「先に坊主からでいいか?」
「はい!」
アランは並べられた木製の武器の中から短剣を選んだ、サバイバルナイフしか使った事ないからかな?
まぁ、普通の剣だとアランには大き過ぎるから丁度いいのかもしれない。
木製短剣を逆手に持って構える、ギルドマスターは軽く振りかぶって攻撃を仕掛ける。
ガコッと硬い木がぶつかる音が試験場に響き、ギルドマスターはニヤリと笑った。
「よしよし、よく受け止めたな。 だが、どこまで耐えられるかな?」
木剣同士がぶつかる音の間隔が段々と早くなってくる、見たところ速度だけでなく攻撃の重さも上げていってる様だった。
アランの攻撃は軽く受け流されている。
数十回目の打ち合う音がして、とうとうアランの短剣が弾き飛ばされた。
痺れているのか左手で右手を抱えている。
「そうだな…、腕前と経験不足を加味してDランクってとこだな」
木剣でトントンと自分の肩を叩きながらギルドマスターが言って副ギルドマスターを見ると、コクリと頷いた。
一般的なベテランと言われるのがCランクなのでレベル的にはCランクに届くが、経験不足なので一つ下げてDランクにしたというところだろう。
実際構え方とか完全に素人だったもんね。
「ありがとうございました!」
アランは一気にランクが上がって嬉しそうに駆け寄って来て抱きついてきた。
「カミーユ! ランクが上がったよ!」
「おめでとう、次は私の番だね」
一度ギュッとハグをしてからよしよしと頭を撫でてからギルドマスターの前に歩み出た。
魔法を使うべきか、剣を使うべきか迷っていると、ギルドマスターが口を開いた。
「カミーユだったか、アンタは文句なくCランクだな。 いや、本来ならSランクじゃないとおかしい実力を持ってると見た。 他のSランカーよりもヤベェって俺の勘が訴えてるからな、俺の事瞬殺できるだろ?」
魔導師として戦うなら魔法を使わなきゃいけないけど、魔法で手加減って難しいのよね。
剣術みたいに寸止めとかできないし、ギルマスは手練れみたいだから本気で来られたら一発で命の危険があるレベルの魔法を使う事になっただろう。
「まぁ…ね。 面倒事はゴメンだから詮索しないでもらえると助かる」
曖昧に微笑んで誤魔化す、私のチートでこの世界に生きているものなら基本的に瞬殺できる。
何せ審判者として存在している訳だし。
アランは訳が分からずポカンとしていた。
「冒険者証の更新しに行こうか」
アランを促して行こうとした時、ギルドマスターがアランに声を掛けた。
「坊主! アランだったか? 週一回ここで基礎訓練やってるから来ると良い、もう少し武器に慣れた方が良さそうだ」
「はい! ありがとうございます!」
嬉しそうにキラキラした笑顔を見せてペコリと深く頭を下げた。
受付カウンターに行くと、副ギルドマスターが伝えてくれていたのですぐに更新できた。
「昇格おめでとうございます。 お二人共Dランク以上となりましたので、ダンジョンに挑める様になりました。 ダンジョンでしか手に入らない素材のクエストもあるのでそちらは報酬も高いものが多いです。 アランさんには一ヶ月分の基礎訓練の日時の一覧表です」
先程の受付嬢がテキパキと説明と手続きをしてくれた。
アランが一覧表を受け取り嬉しそうにお礼を言うと、デキる女のオーラから一転して柔らかく微笑む。
食堂兼酒場の席から熱の篭った溜め息がいくつか聞こえたのでファンがいる様だ。
見るとアランも頬を染めていた、綺麗なお姉さんは皆の憧れだもんね。
ちなみに私に対しては顔が似ているせいか、そんな初々しい反応はした事がない。
いや、されても困るんだけどね?
「ありがとう、クエストボードを確認してくるよ」
お礼を言ってクエストボードを見に行く、私が歩き出すとお姉さんに見惚れていたアランはハッとして着いてきた。
クエストボードの依頼を眺めながらアランと相談する。
「どうする? ダンジョンより森の方が私は慣れてて動きやすいが、アランはダンジョンへ行ってみたいか?」
「う~ん…、もう少し森で慣れてからの方がいいかなぁ。 ダンジョンって街からだと遠いから数日かけて探索するのが基本みたいだし」
「じゃあ、最初のオーク肉にしよう。 というか、あのクエスト見た時から夕御飯はオーク肉にしたいとお腹が要求してるんだ」
真顔で言うと、クスクスとアランが笑って了承してくれた。
いや、本当に豚カツ…オークカツを食べるお腹になってしまってるから。
その日のクエストは私の補助無しでアランが一体仕留めた、私も高水圧の水魔法で眉間を撃ちぬいて三体。
時間停止機能付きの空間収納があるからそのままギルドへ持って行って解体をお願いした。
クエストは二体分なので残りの二体は欲しい部位だけウチの分として持って帰る。
豚バラ…オークバラは角煮にして、今日はロースを使ってオークカツ。
千切り用のキャベツを買って帰ろう、ロースの塊肉の一部は粗塩擦り込んでおいて明日茹でるからネギの緑のところと生姜が必要ね、余りの生姜で明日は生姜焼きにするか…。
メニューを考えて無意識に舌舐めずりしながらアランとマルシェへと向かう、もう少しで空が茜色に染まるという時間なので店仕舞い前のタイムセール状態で値切り交渉もしやすいだろう。
自分達用のついでとして食材のクエストを多くこなしていたら、一月後には「良い状態で魔物食材が手に入るパーティ」として有名になっていた。
アランもCランクになるというオマケ付きで。
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