第9話 光陰矢の如し

 歳月が過ぎるのはあっという間で、アランと同居を始めてから五年が経っていた。

 森で引き篭もっている時は暇だったけど、街で暮らしていると色々忙しくて時が過ぎるのが早く感じるわ…。


 いつの間にかアランに身長も追い抜かれていたし、アランが女の子からアプローチされる事も増えた。

 ランクも私はS級でアランはA級になっている、パーティランクはS級なので王様に謁見もした。


 夜に王様の寝室に転移魔法で忍び込んで事情を話した、神様からの役目があって不老である事、教会には私の存在を知らせてはならない事、故にアランはともかく私は陞爵しないで欲しい事、私の情報は玉璽と共に次代へ引き継いで欲しい事、何よりそっとしておいて関わらないで欲しい事。


 今私は夕食後に家の居間である魔導具を作っている、離れていても呼び出しができるポケベルの様なものだ。

 呼び出し音はアランの声を録音させてもらう、この先また森で暮らす様になったら呼び出すのはきっとアランだろうし。


「アラン、この魔石に向かって順番にこの言葉を話してくれる?」


「え? うん、わかった…。 カミーユ、家に来て! カミーユ、ギルドから呼び出しだよ! カミーユ、セドリックから呼び出しだよ! カミーユ、王様から呼び出しだよ! …って、王様!?」


「まぁまぁ、一応よ。 これで登録してある魔石に魔力を流せばこの魔石から報せる声が聞こえるはず」


 もっと前にこの魔導具を作れたが、前世でガラケーがガラケーと呼ばれる前の時代に着信音を録音できる物があったけど、それに娘の幼い声で「ママ、メールだよ」と録音して設定した事があった。


 結論、夜中に小さい子供の声は肉声でないと我が子の声でも恐怖の対象になる。

 外国製の玩具で赤ちゃんの笑い声が出るものがあったけど、スイッチ切り忘れてぶつかった瞬間に作動した時もビクーッとなった。


 なのでアランの声変わりまで待って作ったのだ。

 ちょいちょいと錬金術も使って魔導具を作り上げ、早速試運転。


「アラン、コレに魔力流してみて」


「わかった」


 アランが魔力を流すと魔石から「カミーユ、家に来て!」とアランの声が聞こえた。


「よっしゃ! 成功や!」


 後は呼び出し用の魔石の区別がつく様に文字を掘っておこう。

 魔力操作でイメージした文字が浮かび上がる、これでギルドとセドリックと王様の緊急用として渡せるね。


 満足して出来上がった魔導具を眺めていると、アランが言いづらそうに口を開いた。


「カミーユ、カミーユは今何歳なの? 出会った時と変わってない様に見えるんだけど…」


 ああ、とうとうこの日が来たかと思った。

 そりゃそうだよね、初めて会った時はお姉さんだったけど、今ではどう見ても同い年に見えるもの。


「アラン、今から話す事は全て真実だけど、嘘みたいな話なの。 それでも信じてくれる?」


「勿論だよ、カミーユの言う事ならどんな話でも信じるよ」


 そう答えてくれたアランの目は真剣だった。


「とりあえず、私とアランの血の繋がりは本当。 あなたは私の妹の子孫よ」


「え? 子孫?」


 予想外の言葉だったせいか、目を見開いてポカンとした顔をする。


「そう、私は千年くらい生きてるわ。 神様からの使命を受けて十七歳から歳をとらないの。 ……お~い、アラン大丈夫?」


 完全にフリーズしたアランの目の前で手を左右にヒラヒラと動かし再起動させる。


「…ハッ! あぁ、うん、大丈夫。 続けて」


 あんまり大丈夫じゃ無さそうだけど、とりあえず話を進める事にした、今まで暮らしてきてアランが真っ直ぐに育ってきてる事は私が一番分かってるもの。


「審判の森に住む魔女、それが私なの。 アランも思った事あるでしょ? 私があなたに持たせてる装備が普通じゃないって」


「森の魔女…って、本当に実在したんだ…。 しかもそれがカミーユ!? でも確かにそう言われても納得できるかも…」


 ゴクリと唾を飲み込み呟く。


「他に知られると厄介だからそろそろ森に帰ろうとは思ってたのよね、今はまだ「若く見える」で済むけど、あと数年したら他の人も異常さに気付くもの。 だからアランが結婚する時に森に帰ろうと考えてコレを作ったの」


「えぇ!?」


「私知ってるのよ? パン屋のエマといい感じだって。 結婚して子供が産まれた頃に信用できそうなら秘密を話そうかと思ってるの。 いつでも会える様にする為の呼び出し魔導具だから寂しくないわよ?」


 ふふん、と本人は隠していたであろう事実を突きつける。


「この家は一部屋だけ私専用にしてくれたら、後は自由に使って欲しいの。 自由に街に来る為の拠点にしたいから、その為の家の住み込み管理人として代々住んでて欲しいのよ」


「でもまだすぐってわけじゃないよね? まだ一緒に居られるよね?」


 泣きそうな顔で見つめてくるアランの頭を撫でる。


「もちろんよ、あと一年は居るつもりよ。 まぁ、私を不審に思う人が増えたら早まるかもしれないけどね。 冒険者を辞めるなら陞爵を受けてセドリック達の隊に入れば喜ばれると思うわ」


 ここ二年程はアランに家事を仕込んである、料理の腕も私に比べたら手際は劣るけど十分美味しい料理が作れている。

 時間停止のマジックバッグもあげたから討伐遠征でも歓迎されるだろう。


「あと一年…、そんなに早く…」


「安心しなさい、転移魔法だって使えるから呼び出しがあれば私の部屋へ一瞬で来れるわ。 家から出なきゃ私がいる事もバレないし」


 出来上がった魔導具を置いて入浴を済ませた、お風呂上がりだけど外出用の服を着る。

 王様に国の存亡が掛かった時のみ呼び出しを使って良いと魔導具を渡す為だ。


 国同士の戦争はダメだけど、ドラゴンの襲撃とかなら助けに来ようと思う。

 そんな事になったらきっとアランだって招集されるだろうし。


 アランがお風呂に入っている間に王様の元へ転移して魔導具を渡して説明した。

 玉璽と共に置いておくそうだ、そして王になった者のみが知る事ができる情報として伝えるらしい。


 ついでに表の騎士と違い、影と呼ばれる裏の護衛の頭領にも口伝で代々伝えてもらう事にした。

 だって王様の元に転移する度に殺気を飛ばしてくるんだもの。


 セドリックとギルドにはこの街を去る時でいいか。

 できるだけそれが先だといいなと思ってしまい、思わずクスリと笑ってしまった。

 千年殆ど一人で過ごして平気だったのに、元の生活に戻るのがこんなに寂しく思う日が来るなんて思ってもみなかった。

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