第8話 指名依頼

「パーティ『パラン』に指名依頼です、カミーユさんだけでも可能だそうですが」


 ギルドに登録して半年が過ぎた頃、初めての指名依頼が舞い込んだ。

 内容が書かれた書類を見ると、騎士団の助っ人としてビッグ・フロッグが大量発生した沼地へ討伐に向かうとの事。


 先週セドリックが家に遊びに押し掛けて来た時に「そろそろビッグ・フロッグが大量発生する時期だな」と話題にしていたが、コレの前振りだったのか…。


 セドリックは私達がこの街に住んで食材ハンターとして人々が認識し始めた頃、マルシェで偶然を装い合流し、夕食を強請った。

 その日はブラック・ブルという魔物の高級食材を手に入れた日だったので確信犯だ。


 しゃぶしゃぶ用の大きめとはいえ、薄~い肉五枚で一万円したA5ランクの松阪牛並と言えば分かるだろうか、前世の晩年は脂が重くなるから二枚で満足だったけど、今の私は脂身ドンと来いな若者なのでお断りしたが、肉に合うお酒を差し出されたのでご馳走したのだった。


 それ以来、思い出した様に現れては食事をして行く様になった。

 マルクも私は女だし、アランは子供なので対セドリックとしては安全と判断したのか何も言わなかった、むしろ一緒に食事を強請る時もあったくらいだ。


「アラン、どうする? セドリックの話だと一週間くらい野営するみたいだったけど。 剣が殆ど通用しないから魔法を使える隊で行くって言ってたから私だけでもって事だと思う」


「道中には他の魔物も出るよね? 俺も行くよ、露払いしたら皆の魔力も温存できるだろうし」


 アランのレベルは既に三十六になっており、週一の基礎訓練のお陰で胸を張って手練れだと言える強さになっている。


「わかった、じゃあ二人で受けようか。 手続きを頼む」


「はい、では明日の朝九時に街の門の前で集合となっておりますので遅れない様お願いします」


 冒険者証を魔導具に翳して依頼を登録してもらい、明日の準備の為に買い出しに向かう。


「テントは手持ちがいくつかあるからそれを使えばいいし、野営道具は…うん、一通り作ってあるから問題ないな。 後は持って行く装備の選択と食料かな」


「え? 今、作ったって言った!? 買ってあるんじゃなくて? はぁ、いつも思うけどカミーユって万能だよね…」


「暇な時間を過ごす手慰みってやつで我ながら恐ろしくなる腕前だよ、職人になったら一流職人として世界中に名声を轟かせられるんじゃないかと思うんだ」


 冗談じゃなく本気で思ってる、前世でも息子が投げ出した部品が百個ありそうな有名ロボットのプラモデルを完成させたり、組み立て式の家具は全て私が組み立てていた。

 トルク調節の出来るちょっとお高い電動ドライバーセットを買って来た時は家族に呆れられたっけ。


 ちなみにトルクはドライバーの回転する力なので、安物だと回転する力が弱くてネジが途中で止まったり、強過ぎるとネジがめり込んでしまうから必要経費だと言い張った。

 ちゃんと調節すればネジ穴を潰さず空回りしてくれるので愛用していた。


 そんな私が千年の間に試行錯誤を繰り返して作った自慢の逸品、一見普通のテントだけど、とても機能的な魔導具と言っても過言ではないレベルである。

 初期の作品は迷子さん達にあげたりしたが、納得の出来の物はキープしてあるので機能別に十張り程空間収納に入れてある。


 マルシェで足りない食材を買って帰宅し、持って行く料理を作り始める。

 今回行くのは初めてセドリックと会った時の討伐隊のメンバーのはず。


 一食くらいは温かいスープを分けてやってもいいけど、ちゃんと騎士団の兵糧とか携帯食とかあるから気を使わなくてもいいかな?

 空間収納に入れておけば時間停止してるから、余っても帰って来てからのご飯にすれば良いから多く作っても問題はない。


 野菜スープにはブーケガルニよね、一度使ったらローリエだけだと物足りなくなっちゃった。

 切った根菜類にお水投入~、コンソメ~、少しだけ適当に刻んだトマト入れて旨味アップ~、沸騰したらアク取って適当に刻んだキャベツ投入~、ソーセージも食べやすく切って投入~、またアク取ってしばらくグツグツしたらでっきあっがり~!


 大きめの寸胴鍋を使ったから気分は給食のおばちゃんだ。

 次は照り焼きチキンにしようかな、高級食材魔物のトップテンに入るレージ・バードの出番ね!

 空間収納から取り出し作っていく、中がほんのりピンクになるギリギリ火が通った状態が一番好きだから焼く時は真剣勝負!


 その日は作った料理の一部を食事に回し、殆どの時間調理をしていた。

 洗浄魔法で汚れ物を一気に洗えるのは主婦からしたらストレスフリー!

 魔法万歳!


 翌朝、朝食を済ませて街の門へと向かうとセドリック達騎士団討伐隊が待っていた。

 今回は森の深部の為、全員徒歩で移動する事になる、予定ルートを少し逸れると私の家があるけど寄り道はできない。


 討伐隊の騎士達は全員魔法が使えるエリート達だ、どの騎士隊よりも多く魔物討伐しているので当然ながらレベルも高く優秀だ。

 そんな人達だからこそ、中には嫌な奴というのは必ず居るものである。


「何で俺達が行くのに余計なお荷物連れて行かなきゃならないんだ?」


「目的地までの使い捨て要員だろ」


「前にデス・スパイダーを横取りした奴らなんじゃないか?」


 うん、場合によっては教育的指導が必要な様だ。

 アランが露払いをするという事で先頭のセドリックの隣を私達は歩いている、すぐ後ろにはマルクも居て隊員達の態度を謝ってきた。


 森に入り、浅部と呼ばれるエリアを過ぎた頃にセドリックが口を開いた。


「そろそろ斥候を出した方がいいな」


 私が居れば魔力探知できるのでそんなもの必要ないが、いつもの行動を乱して調子を狂わせるのもいけないと思い黙っておいた。

 二人組が身体強化を掛けて隊を飛び出して行った。


 何事も無く進み、昼食の時間に休憩をとる事になった。

 野菜スープの寸胴鍋を取り出しアランと自分の分をよそっていると、ちゃっかり器を差し出すセドリックが居た。


「この野郎~、まさか自分の食事要員として私達に指名依頼したんじゃないだろうな?」


 文句を言いつつ差し出された器によそってやると、ご機嫌な笑顔を見せて答えた。


「いやいや、カミーユ達の実力は知ってるから純粋に戦力としてだよ。 まぁ、料理も期待してなかったと言えば嘘になるけどな! …うん、相変わらず美味い!」


 これ以上は分けないという意思表示として、チキンレッグを二本とパンをいくつか取り出して寸胴鍋を収納する。

 焼き立て状態のチキンを頬張り、温かいスープを飲む私とアランを携帯食を齧りながら羨ましげに見る隊員達。

 

「目的地に着く最後の休憩の時に皆に野菜スープくらいなら分けるからそんなに見ないでくれないか?」


 うおおぉ~!と歓声を上げる隊員達、さっき文句を言っていた奴らもちゃっかり歓声を上げていた、お前らも食べるのか。


 それ以降、食事時にチラチラとは見られるがガン見される事は無く、快適テントで夜を過ごし、時々現れる魔物はアランが討伐しつつ予定より早く目的地に着いた。


 その手前の休憩で隊員達の胃袋をガッチリ掴んでしまった模様、似た様な味の携帯食が続いた後だから余計に美味しく感じた事だろう。


 目的地の沼地には座っていて大人程の大きさのカエルの魔物が大量に居た。

 尻尾の名残りがあるカエルもいるので産卵で増えるタイプなのかもしれない。

 そういやカエルと言えば…。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 


side セドリック


 七ヶ月程前に必死な顔で逃げて来た冒険者の要請でデス・スパイダーを討伐する為に審判の森へと向かった時に知り合った凄腕の冒険者のカミーユ、初めて顔を見た時はドンピシャで好みのタイプだったから何とか酒の席に持ち込む事が出来た時は浮かれていた。


 カミーユが女だと知るまでは。

 俺の恋愛対象は男だが、話していると凄く楽しくて友人になりたいと思った。


 知り合って一月で食材になる魔物の依頼を完璧にこなすと評判になっていたのでギルドにいるかと思って向かったら、ブラック・ブルの肉を持ってマルシェへ向かったと聞き、ブラック・ブルに合う酒を持って偶然を装い会いに行った。


 その日の夕食は今まで食べた中で一番美味しかった。

 それから時々話がしたいのと手料理が食べたいの半々で遊びに行っていたら、マルクまで時々ついてくる様になった。

 ちょっと自慢し過ぎたか。


 一年にも満たない付き合いだが、感情はとてもわかりやすい奴だ。

 今回の討伐でも討伐隊の騎士達がゴチャゴチャと余計な事を言っている時もほぼ無表情だったが、制裁を考えている時の顔をしていたのでマルクが慌てて代わりに謝っていた。


 食事休憩の時は迷惑そうな顔をしつつも食事を分けてくれる優しい奴だ。

 本当に男でないのが惜しまれる、男だったらとっくに押し倒してるだろう。

 アランは将来楽しみではあるが、カミーユに絶縁されてしまいそうなので諦めている。


 そんな優しい奴がまさかこんな残酷な事をするなんて予想してなかった。

 討伐予定の沼地に到着した時、あと一日もすれば沼地から森の各地へと飛び出しそうなビッグ・フロッグ達がひしめいていたが、それを呆然と見ていたと思ったらカミーユは魔法で炎を出した。


 ビッグ・フロッグはヌメヌメした体表のせいで刃物が通らず、炎系の魔法もあまり効果は無い、凍らせるのが一番手っ取り早い。


 最初はフレアアローを放ったと思った、しかしビッグ・フロッグの背後に飛んで行ったかと思ったらビッグ・フロッグがいきなり破裂した。

 驚いてカミーユを見るとクスクス笑っていた。


「懐かしいなぁ、カエルと言えばケツ爆竹。 男子ってこういうの好きだったよねぇ」


 ケツバクチクって何だ!?

 薄っすらと笑みを称えたまま次々に炎を放つ、どうやら爆発しているからファイヤーボールの変形版の様だ。

 不意にカミーユがこちらを見て俺の肩に手を置いてニヤリと笑った。


「ケツを狙うのは得意だろ? どんどんヤれよ」


 冒険者として男装して活動している時は男言葉を使うのはわかっているが、(男装してて)好みの見た目のカミーユにこんな事言われるなんて…!

 耐えきれず思わず膝から崩れ落ちた。


「ちょっと! 討伐中に隊長の心を折らないで!!」


 マルクがカミーユに文句を言いながらも恐慌状態で逃げ出そうとしているビッグ・フロッグを氷漬けにしていた。

 魔法が得意な者達はカミーユを真似てファイヤーボールをぶち込み破裂させていた。

 男の恋人がいる奴の中には尻を押さえている奴も居る、ヤられる者として想像してしまったんだろう。


 いつもなら凍らせてから砕くという二度手間だが、カミーユの方法なら一発でトドメが刺せるから効率が良い。

 不本意ながら何とは言わないが狙わせてもらった。


 無事に討伐を終えて帰路につく、カミーユの討伐方法はいつもと違い隊員にとってストレス発散になった者も多かったらしく、凄く隊員達から慕われる様になっていた。

 討伐隊組む時はまた指名依頼を!という声も多かった。


 カミーユは不思議だ。

 若いのに恐ろしい程の凄腕で驚く程知識も豊富だし、見た事も無い料理を出してきたり時々年齢にそぐわない大人びた表情や色香を見せる時もある。


 アランとは血縁らしいが街に来て初めて会ったという。

 街に来る前の事を聞いたらアランはすんなり教えてくれたが、カミーユは「家出して森で引き篭もってた」としか答えてくれなかった。


 年齢を聞いても「女性に年齢を聞くものじゃない」と言い、いつから森に引き篭もっていたのか聞くと「秘密がある方が知りたくなって魅力的に感じるでしょ」などと言ってはぐらかしてくる。


 女で…、いや、こんなに気になる人間は初めてだ。

 街に到着して依頼札に依頼完了のサインをして別れる。

 近々また遊びに行くと言うと「来なくていいよ」と言いながらも笑顔を見せた。


 心地良い軽口を聞きながら気づいた、そうか、カミーユは色目を使って来ないから居心地が良いんだと。

 女から見ると俺は優良物件らしく、男が恋愛対象と言っても色目を使って近づいて来る奴が殆どだ。


 女は色目を使って来るし、男だと俺が色目を使うかもしれない様な俺と純粋な友人になれる稀有な存在に感謝しつつ、王都へ討伐完了の報告書を書いた。



⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘


フォロー、♡、★、ありがとうございます!


ケツ爆竹のネタ思い付いて書く為に作った話なので笑って頂ければ幸いです、笑った方は是非ポチッとお願いします。


残り2話。

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