第10話 最終話

 一年後、アランはエマと結婚する事を決めた、式は二ヶ月後になる。

 エマはいい子だし良縁だと思う。


 ギルドへアランと二人で向かい、パーティの解消をした。

 アランは結婚後陞爵を受けて一代限りの男爵になり、セドリックの隊に入る事になっている。


 ついでにギルドには緊急呼び出し用として魔導具をギルマスに渡した、他のSランカーでも解決出来ない案件がある時に限り使うという条件で。


 セドリックを呼び出し、今夜は一晩中呑むつもりで客間に泊める事になっている。

 自宅なら私も思う存分酔っ払えるというものだ、普段は状態異常を無効化させているが今夜は解除してある。


 酔う前に緊急呼び出し用として魔導具を渡した、この街を二ヶ月後に出るがヤバい魔物討伐の時は協力するから使う様にと。

 もしも子供が産まれたら渡してもいいが、何なら死ぬ間際に呼び出せば死に目に会いに来てやると言った気もする、その話をした時には結構酔っててあまり覚えてない。


 出会った頃より少し老けたセドリックは少しだけ前世の旦那を彷彿させる雰囲気をしていて懐かしい気持ちになった。

 酔いが回って途中で眠気におそわれ、少しウトウトした時に柔らかいものが唇に触れた気がしたが、セドリックしかいないので何かが当たっただけだろう。


 眠かったのでそのまま目を閉じていたら再び柔らかいものが唇に触れ、熱いものが口内に侵入してきた。

 酔った上に寝ぼけた頭でキスされてる事をやっと理解した、でもセドリックは女性は恋愛対象外じゃなかったっけ?


 セドリックは嫌いじゃない、好きか嫌いかで言えば好きだから拒否しようとは思わないし、むしろ大人のキスが気持ちいい。

 DNAの相性がいいのかもしれない、唾液で本能的に判断している説が本当ならば。


 まぁ私は妊娠しない身体なんだけど。

 ヘタに子供が産まれたら我が子や子孫の死を何度も見る事になるから嫌だと神様にお願いしたのだ。


「おかしいな、俺は男しか抱きたいと思わなかったのに、カミーユと離れると思ったら我慢出来なくなった…。 抱いていいか?」


 フワフワした頭で答えないとと思ったが、気付いた時にはコクリと頷いていた。

 その夜の記憶は客間の寝室にお姫様抱っこで運ばれた事と、満たされた想いだけではっきりと覚えてない。


 翌朝、友人という関係を壊す一線を超えてしまった二人が恥ずかしさと気まずさと嬉しさが混ざった気持ちでベッドの上に居た。

 目が合うとセドリックはそっと触れるだけのキスを唇に落とした。

 それを自然に目を瞑り受け入れている自分に驚く。


「コレは…若気の至りって事でいいのかしら…? 私がこの街から出るのは決定事項なんだけど」


「でも、二度とこの街に来ない訳じゃないんだろ? 呼び出せる魔導具も貰った事だし、返さないからな」


 呼び出し用の魔導具を私に見せびらかす様に弄ぶ、酔いと寝ぼけのダブルパンチで正常な判断が出来なかったとはいえセドリックとこんな関係になるなんて!


 その時ハッと気付いた、アランが起きる前に痕跡を消さねば!と。


「あ、あのねセドリック、アランには…昨夜の事は内緒にして欲しいの」


 ちょっとあざといが、必殺上目遣い!

 フッと優しく笑い、了承してくれた。


「わかった、恥ずかしいんだろ?」


 そう言われてコクリと頷き、洗浄魔法でベッドと自分達の身体を綺麗にした。

 清潔になった毛布をセドリックに目隠し代わりに被せてから素早く床に落ちていた下着と夜着を身につける。


「朝食の準備してくるから後でね」


 毛布を被ったまま微動だにしなかったセドリックを置いて寝室を出る、応接室から自室に転移して着替えた後食堂へ向かった。

 これでアランと遭遇しても不審に思われないはず!


 セドリックは貴族なだけあって朝食の時に三人で顔を合わせても見事なポーカーフェイスだった。

 後でコッソリ聞いたら自分でも色々信じられなくてかなり動揺していたらしい、貴族の感情隠しスゴイ。


 その後、私とセドリックは恋人にはならずに友人としての付き合いを続ける事にした。

 お互いあの時は離れる寂しさからの気の迷いという事にした方が色々平和だと判断したからだ。


 アランの結婚式当日、マルクからここ二ヶ月はセドリックが男遊びをしてないと報告され、やっと隊長として落ち着いてくれたと喜んでいたので「よかったね」とだけ言っておいた。


 アランとエマの結婚式はとても素敵だった、討伐隊の騎士達やご近所さん、普段買い物してるお店の人達も祝ってくれてとても賑やかだった。

 ちなみに祝いに来てくれた冒険者の中には何気にシャルル達も混ざっていた。


 二人には結婚祝いとして私が使ってた主寝室にドーンとキングサイズの新しいベッドをプレゼントした。

 コレで子孫を増やしてくれたらこの家の管理する人間が居なくなる事はないだろう。


 夕方、アランの使ってた部屋のドアに「カミーユの部屋」と札を掛け、二人の頬に祝福のキスを送って子供が産まれたら教えてねと伝えて家を出た。


 そして懐かしの我が家へ戻った。

 久しぶりの一人暮らしは隠す事なく魔法も神力も使いたい放題で快適だったけどやはり寂しかった。


 二年後、アランの声が聞こえた。

「カミーユ、家に来て!」と。

 通信の魔導具を手に取り街の自分の部屋へと転移する。


「アラン? どうしたの?」


 自室のドアを開けるとアランが居た、エマが出産するらしい。

 産婆さんに待つ部屋の外で待つ様に言われてジッとしていられなくて呼び出してしまったと恥ずかしそうに言っていた。


 私よりも高い位置にある頭を撫でて一緒に分娩室として使っている個室の前で待つ事にした。

 暫くすると元気な産声が聞こえ、男の赤ちゃんを抱えた産婆さんの助手が姿を見せた。


 まだアランの入室は止められたので、私が部屋に入ってエマを労うと様子がおかしかった。

 出血が多くて呼吸が怪しい、咄嗟に衛生的に不味かったのかと思って浄化魔法と治癒魔法を掛けると呼吸も顔色も良くなって一安心だ。


 潤んだ瞳でお礼を言われた、血の気が引いていくのがわかってこのまま死ぬのかと思ったと泣き出し、側に居たエマの母親も号泣してお礼を言ってくれた。

 まだ震えているエマの手を握り私もお礼を言う。


「私にもお礼を言わせて、アランの子供を産んでくれてありがとう。 私の身内を増やしてくれてありがとう。 私の助けが必要ならいつでも呼んでいいからね」


 何度も涙ながらに頷いて笑顔を見せたので、産婆さん達にもお礼を言って部屋から出る。

 赤ちゃんを抱いて幸せそうに微笑むアランを見て私も幸せな気持ちになった。


 アランにエマにも呼び出しの魔導具の存在と、私が審判の森の魔女で歳を取らない事を教えていいと伝えて森の家に転移した。


 その後、アランから五度の呼び出しを受けたが、全て出産の時だった。

 セドリックからは三十四度、全て久しぶりに会って話がしたいという理由だった。

 幸いギルドからは一度も無い、質の良い冒険者が何人か居る様だ。


 数十年経っただろうか、セドリックからの呼び出しを魔導具が伝える。

 二度目の呼び出しから約束事になったセドリックの私室へと転移する、そこには誰も居なかったが隣の寝室から複数の人の気配がした。


 ノックをすると養子になったセドリックの甥の孫がドアを開けて迎えてくれて挨拶を交わす、彼は初めて会った時はまだ十代だったが老けたな、と思った。


 ベッドに横になっているのは七十八歳となったセドリック。

 ベッドの淵に腰掛け、いつもの様に軽口を叩く。


「久しぶりね、死ぬ前に私の顔が見たくなった?」


「ああ…、相変わらず若くて綺麗だなカミーユは。 生まれ変わったら…また…お前を探して森に…会いに行くから…泣く…な…」


 言われて初めて自分が泣いている事に気付いた、カサカサの年老いた手が涙を拭おうと持ち上がり、そのまま頬に触れずに落ちた。


 ベッドに落ちた手を自分の頬に当て、掌に口付ける。


「あと九千年くらいなら待っててあげるわ」


 葬儀には街を出る前の私を知っている者も来るので出席はしないと告げ、セドリックの枕元にあった呼び出しの魔導具を回収して自分の家に転移して一晩中泣いた。

 セドリックの寝室に居た者達は「俺は審判の森の魔女と特別な友人だ」と言う口癖を聞かされているはずなので私が誰かわかったと思う。


 純粋に会いたい時にだけ私を呼び出し、一度も戦力や社交の為に利用しなかった。

 純粋でバカな特別な友人の為に冥福を祈った。


 三年後にアランのひ孫が産まれると呼び出しがあった、アランの子孫は既に二桁になっている。

 まだ家に残っているお年頃の孫のモルガンは十七歳で私と見た目年齢が同じだ。


 私の部屋を空けてくれたら一人部屋が持てるのに、と文句を言ってきたので「私がこの家の持ち主だから文句があるなら出て行きなさい」とマウントを取っておいた。

 大人気ないとは思ったけどそこはハッキリさせておかないとね!


 更に十年過ぎた頃、「カミーユ、家に来て!」と呼び出しが掛かった。

 街の家に転移するとすすり泣く声が聞こえる、朝起こしに行ったらアランが亡くなってたという。


 額にさよならのキスをして頬を撫でる、まるで幸せそうに眠っている様にしか見えない。

 ベールを被り顔を隠して親族として葬儀に参列した。


 呼び出しの魔導具を回収しようか迷って手に取ろうとしたら、生意気なモルガンがそれを止めた。

 これからもアランの子孫は増えるんだから家の持ち主として見守りに来いと言う。


 偉そうに言っているが、優しさから出た言葉だとわかった。

 思わず笑って頭を撫でると顔を赤くして手を跳ね除けられた。



 アランの葬儀から三百年程経っただろうか、数年に一度くらい迷い込む者を保護するという相変わらずの生活をしつつ森で暮らしている。


 そして久しぶりに魔導具が「カミーユ、家に来て!」と変わらないアランの声で私を呼ぶ。

 どうやらまたアランの子孫が増えるらしい、数年ぶりに街の家に転移した。




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