第4話 初めてのクエスト

「じゃあギルドに行く用の服に着替えないとね、その服のサイズも丁度良かった様だし…、部屋へ戻ってタンスの中から選ぼうか」


 二階のアランの部屋に戻り、ゆっくりタンスを開けながら創造の神力で冒険者用の服を創り出した。

 アランはタンスを開けたら服が入っていた事に凄く驚いていた、そりゃそうか。


 一歩間違えたら長い期間を掛けたストーカー疑惑を抱く案件だもの。

 そんな事を考える前に他の事へ意識を持って行けばいいだけよ!


「コレかコレなんてどう? 私達の髪の色って特に森の中だと目立つからフード付きローブって良いと思うの、だけどローブは慣れてないと歩きづらいかもしれないから短い方が良いかな?」


 地球クオリティのシャンプー、リンス、コンディショナー使用のキューティクルビッチリの私は元より、昨日使っただけのアランも美容院帰りの如くどこから見ても美しい金髪になっているからね。

 コレが若さかしら…、私も永遠の十七歳だけど。


「じゃあ、私も着替えて来るから。 好きな組み合わせで着ていいからね」


 いくつかのコーディネートをベッドの上に並べて自室に戻り、昨日の様に男装してゆったりとしたフード付きローブを羽織る。

 

「よし、準備完了!」


 男装だからメイクもしないし、髪型も縛るだけなので五分程で準備が終わる。

 廊下を挟んだ向かいのドアをノックして声を掛ける。


「アラン? 着替えは終わった?」


「はい! すぐ行きます!」


 言葉通りすぐにドアが開いた、部屋の中がチラッと見えたが着てない服は片付けられ、脱いだ服はベッドの上に畳まれていた。

 孤児院でのしつけのおかげなのだろうか。


 アランはカーキの短めタイプのローブにした様だ、中には茶色のシャツにカーキのカーゴパンツタイプのモノ。

 見た目は普通の服…、いや、服自体は普通の服だがシャツには物理防御、ローブには魔法防御の魔法陣が組み込んである。


 過保護だとは思うけど、ヨチヨチ歩きの子が自分で歩ける様になるまでは手を引いてあげたいと思うでしょう!?

 自分で歩ける様になったら断腸の思いで手を離すから!


 アランは私の姿を見て首を傾げる。


「昨日も思ったけど、カミーユはそうしてると男に見えるね」


「そりゃ男装してるからね、この姿の時は男だと思って欲しい。 女ってだけでちょっかい掛けてくるバカは何処にでもいるから」


 言って肩を竦める。

 実際、遠見の術でギルドを見ていると女性は何かと面倒そうだったので男装しているわけだし。


 パサリとアランにフードを被せてギルドへ向かった。

 昨日は申し込みの受付に居たから依頼だと思われて絡まれなかったのか、クエストの札が掛かってるボードの前に居たらお約束が待っていた。


「おいおい、ヒョロイ兄ちゃんとお子様じゃねぇか、そんなんで依頼なんて受けられるのかぁ~?」


 ヤバイ、絡んで来た四人組にトゲ付き肩パッドの世紀末スタイルが混ざってる…!

 笑っちゃダメだ笑っちゃダメだ笑っちゃダメだ笑っちゃダメだ!!

 何度も自分に言い聞かせるが、そう言い聞かせる度に笑いの沸点が下がって行く気がする。


 笑いを堪えて俯きプルプルしてしまう、絡まれているというのに明らかに笑いを堪えた顔をしている私にアランは戸惑っている様だ。

 しかし四人組は私より背が高いので、俯いた私の顔は見えていない為、当然勘違いする。


「おいおい、震えてるじゃねぇか! 優しい俺達が声掛けてやっただけでよぉ?」


「シモンの顔が怖ぇからだろ、あんまり新人虐めてやるなよ。 なぁ、シャルル?」


 リーダーらしき男が声を掛けてきた男を笑いながら嗜め、世紀末男を振り返った。

 シャルル…だと…!?

 ごめん、限界です。


「ブハァッ!! あはははは、もぅダメだ、限界! ふぐっ、ハハハハッ! ごめっ、フハハハっ、ゲホゲホッ」


 そんな世紀末スタイルで昔友達に勧められた少女小説のシリーズで一番美形のキャラと同じ名前なんて卑怯過ぎるでしょ。

 お腹を抱えて爆笑し、笑い崩れて片膝ついてゼーゼーと呼吸を整える私にギルド内がポカンとして注目している。


 私は子供の頃から某お笑い事務所の喜劇が大好きで、当然お約束モノも大好きなの。

 世紀末スタイルでギリギリだったのに、シャルルなんて名前で不意打ち喰らったらもうアウトでしょ。


「すまない、見た目と名前のギャップにやられてしまっ…ブフッ!」


 立ち上がり、目尻に滲んだ涙を指で拭いながら謝ったが、再びシャルルを視界に入れた瞬間吹き出してしまった。

 そのせいでギルド内に居たシャルルとアラン以外が一斉に笑い出した。


「「「「「わはははははは!」」」」」


「実は俺もそれ思ってたんだよな」


「わかる! ゴロツキ風でシャルルなんて優し気な名前だもんな!」


 口々に言いたい事を言い出す冒険者達、流石に申し訳なく思ってきた。

 しかも声を掛けて来たシモンとやらじゃなく、完全に流れ弾状態で弄ってしまった事になる。


「あの…、シャルル? 申し訳ない…」


 俯いて顔を真っ赤にしたシャルルに謝罪をしたが、反応が無い。


「うっ、うるせぇっ! 母ちゃんが産まれた俺を見て白皙の美少年になると思って付けたんだよっ! 俺のせいじゃねぇ!」


 白皙の美少年発言に更に周りが爆笑する。

 しかし、よく見てみれば確かに綺麗な顔と言えるだろう、ただそれ以外が酷いから顔に目が行かないだけで。

 なのでポロリと言ってしまった。


「確かに服装と髪型を整えたら名前と違和感なくなりそうだな」


 ジッと顔を覗き込んで言うと再び周りがシンとなって、次々にシャルルの顔をちゃんと見ようと集まって来た。


「へ? あ、ちょっと待てお前ら…何す…ッ」


 結果的にイメチェンする為にシャルルはメンバーと他数人に連行されて行った。


「……とりあえず…、薬草採取のクエストでもやろっか…」


 シャルルの連れ去られた方を見ながら言うと、アランはコクリと頷いた。


 クエストボードから三種類の薬草採取のクエスト札を取り、受付カウンターへ持っていく。

 ついでにパーティ申請もしたが、パーティ名が思い付かずに保留にして仮登録にした。


 ギルド内の売店でアランのブーツを買う、靴がボロボロだったし森を歩くにはやはりブーツが一番だもの。

 後日ピッタリの物を私が作ってもいいけど、流石に今持ってたら怪しいどころの騒ぎじゃないからね。

 ストーカーの烙印を押される事間違い無いわ。

 

 二人で街を出て森へと向かう、森の端っこなら徒歩十分で到着する、薬草があるかどうかはともかく。

 歩きながら薬草に関する事を教えつつ森へと向かう。


「採取するのは月夜草と鳴き草と雷草ね、見分け方覚えられた?」


「えーと、確か…。 月夜草は月光を浴びると仄かに光る白くて丸い花で、鳴き草は真っ直ぐで指で挟んで擦るとキューって鳴き声みたいな音を出す草、雷草は触るとパチッと雷属性の火花を散らす先が丸い葉!」


「正解! よく覚えられたね」


 よしよしと頭を撫でるとアランは気持ち良さ気に目を細めた。

 

「正解のご褒美に~、はいコレ。 雷草を採取する時に手が痛くならない手袋なんだ、普段の冒険にも使えるから便利だよ」


「うわぁ、ありがとう!」


 雷草だけは採取す時に強力な静電気が発生するので絶縁グローブは必須で、そのおかげで報酬がちょっと良い。


「あと、コレは貸し出しね。 自分の物にしたかったら安く売ってあげるよ、欲しいなら頑張って稼ぐんだね。 薬草を掘り出す時にも使えるからね」


 そう言ってベルトの腰側に横向に鞘に納められたナックルガード付きのサバイバルナイフ(私のDYI作品)をマジックバッグから取り出してベルトを着けてあげた。


 なんでもかんでもあげてしまうと、過去の森の家の訪問者の様になってしまう危険があるから貸し出しという事にした。

 何かの記念やお祝いの時にプレゼントという事にしてそのまま使ってもらうつもりだけど。


「ありがとう! 俺、頑張って薬草採取するよ!」


 腰に付けられたナイフを見ようと一所懸命身体を捻っていたが、途中で抜けばいいと気付いたのか頬を染めつつ暫くうっとりとナイフを眺めてから鞘に戻そうとして、背後の見えない鞘に悪戦苦闘しながら何とか納めた。


 そんな様子を見ていたら自分の尻尾を追ってグルグル回る犬を思い出して笑ってしまい、アランは唇を尖らせて上目遣いで睨んで来た。

 ちびっ子がそんな顔しても可愛いだけなんだけどね。


「ははっ、慣れたら一発で鞘に納められる様になるさ。 ここからは森の中だから周辺の気配を探りながら進む事!」


 あえて厳しい表情を作り警告する、私が渡した装備があれば危険は無いけれど。

 事前に遠見の術で薬草が生えている所は確認してあるので、さりげなく誘導してそちらへ向かわせる。


「あっ! カミーユ! あれ月夜草じゃない!?」


 アランが興奮した様に振り返って叫んだ。

 周りに魔物が居ないのは分かっていたが、

あえて焦ったフリをして声を潜めて注意をする。


「アラン! 浅いとはいえ森の中なんだから大きな声を出して魔物が来たらどうするの!」


 言われて顔色を変えてバッと自分の口を塞ぐアラン、今押さえても遅いよ?


「まぁ、今は近くに魔物の気配は無いけど」


 ニヤリと笑って言うと、顔を赤くして薬草を採取しに向かう。


「雷草は根元からナイフで切り落とせばいいからね」


 アランの態度にクスクス笑いながら言うと、一瞬大きな声で言い返そうとしたのか開いた口を一度閉じてから口パクで「わかってる」と答えた。

 

 そんな遣り取りをしながら無事に三種類の薬草を採取し終わった。

 種類別にした薬草は私のマジックバッグへ収納して帰る事にした。


 この採取の間に私が揶揄うと不満そうな顔を見せてくれる様になってホッとした、いつまでも遠慮していたら家族として破綻してしまうので本音を見せてくれた事に安心したと共になんだか家族として甘えて貰えた気がしてくすぐったかった。


 森の切れ目が見えた時、野太い悲鳴がこちらへ近づいて来た。

 冒険者の掟としてやってはいけない事の一つ、魔物を引き連れたまま森の外へ逃げ出すという事をやらかそうとしているバカがいる様だった。


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