千年生きた魔女、久々の娑婆を満喫する

酒本アズサ@自由賢者2巻発売中

第1話 引き篭り開始から終了まで約千年

「ごめん、ナタリーと結婚する事になったんだ。 カミーユ、決して君の事が嫌いになった訳じゃないんだが…その、子供が出来たらしくて…」


「え? ナタリーって私の親友の…?」


 そんな…、親友と二股で寝取られなんてお約束なパターンてあり?

 あれ? お約束って何?

 付き合って一年程の身体の関係もある恋人のダミアンから衝撃の事実が伝えられた。


 プツリ

 

 そんな音がどこからか聞こえた気がした。

 その途端に私の中から何かが噴き出した、これは魔力であり、神の力であり、私の記憶。


 私は…、そう、鷹宮 薫たかみやかおるだった。

 極一般的な家庭で生まれ育ち、比較的善良な人間だと思っている。

 別に聖人君子だとは思ってなかったし、十代の時は何人かと恋愛も楽しみ、適齢期のクリスマスイブ(二十四歳)には結婚もした。


 子供は女、男、女と可愛い子達に恵まれ、孫も娘達が見せてくれたし、あとは息子がお嫁さん連れてくるのを待つだけね、なんて笑いながら旦那と神頼みしに行ったよのね。


 あの時ご…とりあえずアラフィフだったわ。

 心筋梗塞か脳梗塞か階段から落ちたか、何にせよ神社へ行ったところまでしか記憶が無い。


 そしてあの世と言われてるであろう場所であの神社の神様か分からないけど会って言われたの。


「私の管理する世界が一般的な良識のある人間の目で存続させる価値があるのかどうか見極めて欲しい。 天寿を全うするまで生きたのならモノの分別もつくであろう。 神の目線だとどうしても面倒だから全て無くして一から世界を作れば良いと思ってしまうのだ。 故に其方に神の代理人としての権限と能力を授けよう」


 ご…アラフィフが天寿って私の人生短くない!?

 しかも唐突な宣言に最初言葉が出なくて鯉か金魚みたいに口をぱくぱくさせてしまったわ。


「期間は…そう、一万年程みれば良いかな…?」


 気が遠くなるような期間に頭が再起動してくれた。


「そっ、そんな長い期間なんて私の頭も心もパンクしてしまいます!」


 進化の過程でも見届けろと言いうの!?

 思わず言った抗議に神様が暫く考え込む仕草をして何やら閃いた様だ。


「ふむ、ならば記憶を整理しやすくしてやろう。 其方が地球で見聞きした物事も私の作った世界で見聞きした物事も取捨選択できて普段は忘れる様に、キーワード等ですぐに鮮明に思い出せる様にしておこう。 そして新しい世界の常識を知る為にも十七歳までは記憶を封印する。 時が来たら無尽蔵の魔力と創造の為の神力、そして今までの記憶をその身に宿せる様にしておこう」


 いい考えだと言わんばかりにニッコリ笑う、何か光ってるからはっきり姿は見えないけど笑ったんだと思う。

 検索機能のある外付けのハードディスクをセットした様なものらしい。


 他にも色々条件やら話したけど割愛する。


 よりによってこんな状況で思い出すなんてどうかしてる、魔力と神力が混ざったモノが可視化されてたらしくてダミアンの顔もドン引きしてるじゃない。


 正直旦那の事を思い出した今となっては今迄の私はさしずめ恋に恋する乙女だったってとこね。

 ダミアンに対して未練は完全に無くなってる、浮気する様なクズな訳だし。

 前世の知識からしたら浮気する男は何度でもするもの、その内ナタリーも浮気されて別れるでしょ。

 その時に一時の感情で友情を踏みにじった事を後悔するがいいわ。


 私から色々噴き出した事に村中大騒ぎになっていた。

 未知なるものに対する恐怖の表情、私の両親も例外ではない。

 ここで私は神の代理人で審判者です、なーんて言おうものなら神殿に突き出されて処刑場送りにされてもおかしくはない。

 ここはそんな世界だ。


 そういう常識を学ぶ為に神様は十七歳まで私の記憶を封印した訳だし、先入観があると初っ端からこの世界の常識を否定してただろうし。


 噴き出した魔力や神力が落ち着き、とりあえず私は呆然としているダミアンを放置して家に戻って自分の多くない荷物と貯金していたお金を持って家を出た。

 そして恐怖の色を浮かべたままの両親に向かって頭を下げた。


「今まで育ててくれてありがとう、私は皆と同じ時間の流れで生きていけないから出て行くわ。 私の事は忘れて弟と妹を可愛がってあげてね。 村の皆にも伝えて、さようなら、元気でねって」


 二階の窓から覗いていた弟妹に笑顔で手を振って歩き出し、ダミアンの前を通り過ぎる時に「永遠にさようなら」とだけ言って村を出た。


 村から千キロ離れた未開の森の一部に認識阻害や近づく者を惑わす結界を張り、魔法と創造の神力を駆使して木を切り倒し快適なログハウスを作り出した。


 創造の神力というのはとても便利だ、あらゆる物を作り出せる。

 「こういうのが欲しい」と思えば、この世界に存在するあらゆる物を使って製造できる。

 ただ、この世界に存在しないものは使えない様だ。


 しかしあらゆる属性の魔石を使えば電子レンジ擬きも冷蔵庫擬きもオーブン擬きもエアコン擬きも作り放題、ポーションなんかも材料無しで作れてしまうというお得さ、まーさーにチート!

 

 どうやら知りたい事は既にしっかり頭に入っているらしく、知りたいと思った事はパッと頭に思い浮かぶ。

 検索機能付きというやつだ。


 食事は神力で出せるし、結界なんかは無尽蔵魔力で張りたい放題、森に生息する魔物を倒してその素材を使ってDIY気分で神力を使わずポーションや武器や装備を作って保存魔法掛けて倉庫に放置。

 

 どうやら知識だけじゃなく身体の使い方までインプットされてる様で、仕上がりが匠の技レベルの物が倉庫にゴロゴロしている状態に…。


 家の周りの結界は善良な者、又は良識と情報を持つ者ならば森で迷った時に入れる様にしてある。

 だから多くて月一、少なくて年一回くらいはお客が来る。

 この森は結構危険らしくて大抵血塗れで虫の息だったりするが、私のチートなポーションや治癒魔法でチョチョイのチョイ。


 食事もさせて元気いっぱいにしてから本人の希望する森の中や外まで転移させてあげている。

 ついでにボロボロだった装備を倉庫に眠ってる装備と交換してあげたり、良い情報くれたり気に入ったら更にポーションやお弁当持たせてあげる事もある。


 でも大抵そんな人達は次に欲を孕んだ目で再びこの家を目指したりする、その場合は「善良」も「良識」も無くしてしまってたりするので辿り着く事は無い。

 恐らく私の作った防具や武器の価値を知って欲に染まってしまうのだろう。


 ぶっちゃけそうやって試して二度目の訪問する人が居たら友達になりたいと思ってるが、千年程経ってもそんな人は現れない。


 その千年の間にこの森の名称は何度か変わっている。

 「迷いの森」または「聖者の森」そして「魔女の森」と名前を変え、現在は「審判の森」という名前だ。


 この名前は私のせいで変わっていったらしい、一度来た家にいつまで経っても辿り着けなくて「迷いの森」、助けられた人が多かった時期が「聖者の森」、お土産に当時ハマって作ってたポーション持たせたりしてたら「魔女の森」、百年程前に王家から騎士団が派遣されて私を探し回ってウロつかれるのがウザかったので雷系の魔法で追い払ったりしてたら「審判の森」へと変わってしまった。

 

 数十年前に同じ森の中に家から徒歩一時間くらいの場所にダンジョンが出来て一番近い街が冒険者の街として有名になった。

 出来た当時は寝惚けて私が作り出したんじゃないかと焦ったけど、森の中で一番魔力溜まりが出来やすい場所だったから自然発生だと結論付けた。

 ダンジョンが出来てから魔力が消費されてるのか森の中の魔力溜まりから発生する魔物が半分以下になっている。


 森の中や周辺の村や街の様子は遠見の術で時々見ているので知っている、それがあったから稀にしか来ない客人だけでも孤独さに負ける事なく生きていられたと思う。

 そしてある時見つけてしまった、私と良く似た顔立ちの十二歳くらいの男の子。

 審判の森の近くの街へ馬車で向かってる様だった。


 すぐに確信を持ったわ、千年前の弟妹どちらかの子孫だと。

 それまで前世の家族はともかく、今世の家族なんて記憶の彼方だったのに一目見た瞬間思い出したのよね。


 最初はちょっとだけ話してみたいと思っただけ、その為には街に行かなくてはいけない。

 時間停止機能のある空間収納と時間は過ぎてしまうアイテムボックス、どちらも手ぶらで出掛けられる便利機能だけど、さすがに怪しまれちゃうからマジックバッグをカモフラージュとして持ち歩く事にした。


 倉庫に眠ってた全ての装備とポーション、この時代の街で浮かない程度の男装にローブを羽織る。

 幸い私の名前はカミーユという男女共に使われる名前だし、身長は男性平均より低いが女性では高め、声も男にしては高めだが女性にしてはハスキーなので胸にサラシを巻けば男で通るだろう。


 なんと言っても永遠の十七歳なので成長途中と言い張ればそれで通るだろうし。

 街に入る時に身分証を求められたが、千年前の身分証なんて出したら怪しいどころの騒ぎじゃない。

 家出したので持って来てないと言って保証金の銀貨三枚を渡して街に入れた。


 ちなみにこのお金は森に入った冒険者やら騎士やらが魔物に襲われて身体は美味しく頂かれて無くなっているが、装備や所持金は落ちているので拾ったりした物。

 この世界は持ち主が亡くなっていればネコババにはならないし。

 故に私は結構なお金持ちだ。


 街の門を潜ると、田舎者を圧倒する目的なのかと言いたくなる程に盛況な大通りが最初に目に入る。


「よっしゃ、久々の娑婆しゃばや! 思いっきり楽しんだる!」


  七歳までしか近畿地方に住んでなかった筈なのに、未だ興奮すると方言が飛び出してしまう、「三つ子の魂百まで」と言うのだから三歳どころか七歳まで居たのなら仕方ないのか。

 実際百歳どころじゃないけど。

 そういえばこの変わり様に引かずに笑ってくれたのが前世の旦那だったのよね。


 街に入れたのでツラツラと旦那の事を思い出しながら身分証を作る為にも早速冒険者ギルドへ向かった。

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