第2話 ギルド登録

「ここが冒険者ギルドね…」


 テンプレの絡みとかあるのかな、なんて少しワクワクしながらドアを潜る。

 生前お金が掛からないからと娘に教えたもらったウェブ小説に出て来そうなファンタジー感溢れる冒険者ギルドがそこにあった。


 私自身白とえんじ色のテレビゲームのハードが発売された当初に配管工兄弟のゲームに始まりシリーズが二桁になったのRPGも嗜んできた。

 とりあえずルイーダというギルド職員がいたら贔屓しよう、そんな事を考えながらギルド内を見回す。


 左手には酒場兼食堂、右手には受付カウンター、奥は買い取りカウンターかな?

 手前には冒険者向けの初心者グッズが販売されていた、私がDIYで作った物の方が断然上質みたいだけど。


 受付の登録カウンターに向かうと酒場兼食堂から不躾な視線が向けられる、世紀末か!とツッコミたくなる様なトゲトゲの付いた服を着ている人もチラホラいるが、笑ってしまいそうなので焦点を合わせない様に気を付ける。

 世紀末と言えば色違いの敵を倒すと文字が出てきて七つゲットするとパワーアップするゲームソフトもあったな、などとノスタルジーに浸りながら歩を進める。


 カウンターに行くと私の前に今世の家族の子孫が居た、近くで見ると先祖返りかと思う程私と似ている、私の子孫ではないけど。

 私は金髪に緑の目だが、目の前の子は金髪に蒼い眼だ。


 どうやら登録料が足りないらしくて揉めている、稼いでから払うと言っているが最初の依頼を成功させる保証はないからダメだと言われている様だ。


「じゃあ、足りない分は自分が払うよ」


 つい後ろから声を掛けてしまった。

 どうせ不足分は大銅貨一枚分だったし、日本円で千円くらいだ。

 驚いて振り返る少年、見ず知らずの人にお金を出して貰ったのだから当然か。


「なんだか見た目的に血の繋がりがありそうだし、貸し一つって事で」


 少し低めの声を作って少年にウィンクを一つ。


 少年は魔力登録してギルドカードを無事手に入れた様だ。

 私も登録を済ませる、職業は魔導師と錬金術師のダブル登録にしておいた。

 ギルドカードには名前、職業、ランク、登録した街が表示される。

 年齢とか性別とかレベルとか魔力量とか無くて良かった、大騒ぎになる事間違いなし。


 私と少年…、アランは一緒に説明を受けた。

 ランクは上からS・A・Bから順に見習い扱いのGまである。

 当然二人ともGだ。

 依頼を三つこなして見習い卒業らしい。


 私はアランに声を掛けて登録料に困るくらいなのに宿はあるのか聞くと野宿する気満々だった。

 おおぅ、頭が痛い…。


 話を聞くと両親が流行病で亡くなり、祖父に育てられていたが二年前に森で魔物に襲われて亡くなったそうだ。


 一月半程前に村が魔物に襲われて壊滅状態になり、孤児として教会で育てられていたが神官様が魔物に殺されてしまったので、火事場泥棒よろしく住人が全滅した家から金品を持ち出して何とかここまでやって来たそうな。


 仕方がないので今から家を借りに行くから決まったら泊めてあげる約束をした。

 子供一人は危険だからと付いてくる様に言うと、依頼をこなすからと断ろうするので来ないなら泊めないと脅して連行した。


 ギルドに紹介してもらった不動産屋でいくつかの物件を見て回り、一戸建てのこじんまりした家に決めた。

 それなりの年数が経ってるので建てるよりうんと安く、好きにリフォームできるので借りずに買う事にした。


 契約を済ませて現金一括払いをすると日本円で千五百万円くらいかな。

 大金貨一枚と金貨5枚、億単位になると白金貨というのがあるが余程のお金持ちじゃないと持つ事は無い。


 ちなみに何故私が大金貨なんて大金を持ってるかというと、数年前に盗賊が横行していた街道を避けて森の中を通っていた商隊が魔物に襲われ全滅していたので、街から見えないギリギリの街道まで転移させてあげたので迷惑料として現金だけ貰っておいたのだ。


 商品自体は無事に商会に届けられた様なので店が潰れたって事はないだろう。

 運搬費用だよね、うん。


 埃っぽい家全体に洗浄の魔法を掛けて中に入る、躊躇っているアランを促して部屋を選ばせる事にした。


「改めて自己紹介をしよう、私はカミーユという。 アラン、君はトリザ村の関係者ではないのかな?」


 私の出身地であるテルノ村は、トリザ村という当時とは違う名前で存在していた、アランに魔物に襲われたと聞いてから遠見の術で村の様子を見てみたが、正直村を飛び出して正解だったと言えるだろう。


 村人と魔物の血の匂いに惹かれた魔物達が再び村を襲撃した様だ。

 生き残ってるのはこのアランだけだろう。

 私の問いにアランは酷く動揺した、出身の村の名前を私に告げてなかったからだ。


「私の亡くなった両親がトリザ村出身なのさ、そして君の容姿。 とても私と似てると思わないか?」


 顔を覗き込んで問うてみたが、もじもじしたままでとても答え辛そうにしていた。

 しばらく待っているとポソっと答える。


「水鏡くらいしか…鏡を見た事なくて…」


 なるほど、確かに地球にあった様な真っ直ぐなガラスなんて王宮や上位貴族の住まいくらいにしかないか、お金持ち程度でも磨いた金属を使ってたりするもんね。


「じゃあ、後で並んで鏡を見てみようか。 まるで姉と弟みたいに目の色以外よく似てるよ。 だからアランを見た時に血縁者だと確信したのさ」


 そう言って頭を撫でた瞬間シラミをアランの頭に発見してしまったので即座に魔法で殲滅して綺麗にした。

 アランは私が女だと知ったせいなのか、頭が急にサッパリしたせいなのか目を見開いていた。

 とりあえず衣食住を整えなければ。


「さて、何から手をつけようかな」


 顎を親指で支える様にして考える、その時クゥゥ~っとアランのお腹から音がした。

 アランはお腹を両手で抱える様にして顔を真っ赤にしていた。


「ははっ、まずは腹ごしらえからかな。 今からなら屋台の方がいいかな、行こうか」


 躊躇うアランと手を繋いで街の屋台通りに向かう、あまり良い食生活では無かっただろうからまずは具入りスープを二人分買った。


「空腹みたいだからまずはお腹に優しいスープからにしようね。 さぁ、食べよう。 いただきます」


 そう言って食べようとすると、アランがピクリと反応して顔を上げた。


「それ…いただきますって爺ちゃんが言ってた言葉だ…」


 そう言って亡くなった家族を思い出したのかみるみる目が潤み出した。

 いただきますは家族全員寿命で亡くなった後に墓参りに行った時、親戚だと名乗って会った妹の孫達が気に入って私の真似して言っていたので妹の子孫なのだろう。

 そうか、更にその子供や孫にも教えていたんだね。


「それなら私とアランの血の繋がりは確実だね、親戚じゃない家では使って無かったでしょ?」


「うん、遠い遠い島国で使われてる言葉だって聞いたよ。 食べる物の命とそれに関わる人達に感謝を捧げる言葉だって」


「そうだよ、食事ができるって感謝すべき事だからね。 冷めない内に食べな」


 促されて袖で滲んだ涙を乱暴に拭って「いただきます」と言ってから食べ始めた。

 とりあえず夕食と明日の朝の食材を買って家に戻った。


 家の中に入り、玄関でアランを待機させる。

 まずはお風呂に入って欲しい、村からここまでの移動の間にお風呂に入ったか怪しいくらい臭う。


 風呂場を覗くと魔導具のシャワーと蛇口はあるが浴槽が無い。

 そんな時は神力を使って創造するしかないでしょ!

 シャンプーやリンス、ボディソープを置く台も設置し、私とアラン各自のボディタオルも準備した。


 アランに聞くと浴槽のあるお風呂は初めてらしいので、ちょっと恥ずかしいかもしれないけど腰にタオルを巻いて貰い、頭と身体の洗い方に始まり、綺麗に洗ってから浴槽に浸かるなどのお風呂ルールを教え込んだ。


 ゆっくり浸かって温まる様に言い、バスタオルと着替えを創造して置いておく。

 その間に引き篭もってたログハウスから持ち出した予備の家具を空間収納から取り出してドンドン設置していく。


 リビングのテーブルとソファ、六人掛けのダイニングテーブルセット、寝室にベッドと机に椅子。

 ベッドにはフカフカお布団と枕のセット!


 キッチンには調味料一式に調理道具、食材は空間収納に入れたままでいいか。

 あとはカトラリーとお皿などの器。


 サクサク準備を終わらせるとアランがお風呂から出てきた。

 脂でベタついてた髪もツヤツヤになり、薄汚れた孤児丸出し感が無くなった。

 アランの部屋に案内すると驚いた後に不安そうな顔をした。


「いつの間にこんな家具を…。 あの、俺はこんなに親切にしてもらっても何も返せるものがないんだけど…いいの?」


 言いながら泣きそうな顔になっている。

 家の玄関の向かいに姿見を取り付けたのでそこまで連れて行き、姿見を二人で見る。

 地球と同じクオリティの鏡なので、アランは目を見張って自分達の姿を見ている。


 鏡の中の私達は同じ色合いの金髪に中性的な整った顔立ち、ただ私の瞳はエメラルドの様な緑でアランはサファイアの様な深い青だ。

 きっと先祖返りなのだろう、でなければ閉鎖的な村特有の村人遡れば全員親戚状態で似た顔立ちが多かったのかもしれない。

 

 さっきまで薄汚れて結構臭っていたから大丈夫だったかもしれないけど、今の見た目で一人旅だったら誘拐されて奴隷商人に売られてもおかしくは無かったとおもう。


「どう? どこから見ても血縁者でしょう? きっと私達は最後の血縁者…。 家族はあの村から移住しなかったでしょう?」


 閉鎖的で余所者を嫌い、外へ行く者を蔑む様な村だった。

 村の外とは定期的に品物を売りに来る商人と村長さんが町に行って情報を仕入れる程度だったから。


 鏡の前で私と自分を見比べてボロボロと大粒の涙を流している。

 きっと今まで一人になってしまった事が怖くて仕方なかったのだろう。


「私の方がお姉さんで、ある程度はお金も持ってるから暫くは養ってあげるわ。 その内冒険者の仕事で稼いだ分から返して貰うからね」


 鏡越しにウィンクひとつを送ると笑顔で頷いた。

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