後編
まだこんな時間だ。
八重洲口にはそれほど人気はない。
おまけにこの時期だからな。
俺達はターミナルの横に、一軒だけ、
”OPEN”の札を出していたカフェレストランに入った。
窓際のボックス席に腰を下ろす。
店内には女が三人、男が二人、客はそれだけだった。
俺はコーヒーとサンドイッチ。
彼女はレモンティーとマフィンを頼む。
『朝って、気持ちいいわね』
ウィンド越しに、明るくなった都会の風景を眺めながら彼女が言った。
オーダーしたメニューが運ばれてきた。
彼女はレモンを浮かべ、砂糖を入れ、ゆっくりと啜る。
『で?考えは変わって?』
魅惑的な瞳で俺を見つめながら問う。
『変わらん』
コーヒーを口に運び、サンドイッチをひと
『貴方が今の仕事で幾ら稼いでいるか知らないけど、その倍、いえ、数百倍になって戻ってきて、その上・・・・』
『義賊になって反体制派から崇め奉られるか?真っ平だ』
俺は彼女の目の前に左手で
『大事な荷物は丁重に引き渡さないとな』
『貴方・・・・探偵だったの?』
『
『呆れたわね。探偵っていつから警察の下請けをするようになったの?
『頼まれれば嫌と言えない性格なんだ。それにこの節だからな、貧乏な探偵には金を目の前にぶら下げられりゃ、文句もいえまい。』
テーブルの下で彼女の手が動く。
『人を傷つけるのは嫌だけど、私だって護身用の為に、飛び道具ぐらい持っているのよ』
小型のリヴォルヴァーが光るのが見える。
『止し給え。』
俺は左脇のホルスターからM1917を抜き、銃口を彼女に向ける。
『悪いがこの距離なら、君の小型拳銃よりは威力があるぜ。だが、出来れば女は撃ちたくない。』
俺の周りがざわついた。
他の客が立ち上がり、テーブルに向かって歩いて来ると、逃げられないように取り囲んだ。
彼女は肩をすくめ、拳銃をテーブルに置く。
『仕方ないわね。往生際は良くしましょ。でも、ごめんなさい。割り勘って訳には行かなくなってよ?』
『ああ、いいよ。俺が払う。どうせ経費で落ちるんだ』
『広域手配犯、128号だな。逮捕状が出ている』
先頭にいた下駄みたいな顔をした刑事が、逮捕状を突き付けて宣言した。
彼女はシートから立ち上がり、女性の私服が
『探偵さん、縁があったら又逢いましょ。アデュウ』彼女は
『助かったわ』何時の間にか”切れ者”こと、マリーがやってきていた。彼女は俺の隣に立つと、シガリロを咥えると、ジッポーを鳴らした。
『礼には及ばん。
素っ気なく答え、俺はシナモンスティックを咥える。
広域手配犯128号、通称”黒猫”日本国中股にかけて金持ちばかりを狙って荒稼ぎを繰り返していた泥棒(怪盗なんて表現は嫌いだ)。
分かっていたのは”女である”ということだけ。
全国の警察も手をこまねいていた。
そんな時、僅かな筋を頼りに、彼女が九州で仕事をし、東京に帰る。移動手段はバス・・・・という情報を掴んだ。
しかしだからって大規模に警官隊を動かして大捕り物を展開するわけにも行かない。
そこで
”向こうは鼻の利く泥棒ですからね。
と来た。
『ご苦労様、後で警視総監から感状くらいは出るわよ』
『紙切れ一枚じゃ腹は膨れん』
『勿論金一封くらいは・・・・』
『どうせ諭吉センセが一人だろ?』
『冗談よ。ちゃんとギャラと経費、それから危険手当に成功報酬は出るわよ。それからあ・た・し』
彼女は少し伸びあがって、俺の頬にキスをした。
『悪くない、あとバーボンを二杯』
『オーケー、じゃ、今晩、”アヴァンティ”でいいわね』
『いいよ』
パトカーで送ろうかという彼女の誘いを断り、俺はタクシーでネグラへと急いだ。
風呂に入って、一寝入りしたら、酒が待ってる。
終り
*)この物語はフィクションです。登場人物、事件その他全ては作者の想像の産物であります。
黒猫と朝食を 冷門 風之助 @yamato2673nippon
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