ファンタジー×メンテ×SE×(3人+1匹)=癒しの世界へようこそ!

 ブラック企業で働いていたシステムエンジニアの美沙はデスマーチの末に倒れ、気付けば異世界で目を覚ましていた。美沙はミシャとなり(ついでに若返って)、そこでドワーフのルル、エルフのディアナと出会い、プログラマーの知識と思考法を活かして魔法を効率的に構築し、世界各地のダンジョンをめぐっていく‥‥。

 『三人娘の異世界メンテナンス紀行』〜旅と出会いと時々ダンジョン〜は、三人娘の世界を守るための旅を描いたものです。ただ悲壮な冒険ではなく、どちらかというと春の日差しに包まれながら三人と一匹、そして周囲の優しい人たちによって、ほんわか解決していく物語です。
他のファンタジーと違うのは主人公がSEであること。そうか、魔法の考えをSEの視点で考えたらこうなるんだ、という発想は新鮮な驚きと楽しみを得ることができます。また世界を守るといっても、ダンジョンへ行って、管理室へ行ってメンテナンスや訓練を行うという、システム維持の為の旅といっていいでしょう。詳しくは本編を是非読んで欲しいですが、そのメンテナンスで世界のいろいろなダンジョンへ行く毎に世界の成り立ちや、謎、そして攻略の過程で多くの仲間たちと知り合うという、読めば読むほど深く、楽しく読者をこの世界の奥底に誘ってくれるでしょう。
 タイトルも凝っていて、プログラム関係の用語のタイトルはうまくそのお話の世界観にマッチしています。特にお気に入りなのは五十八話の「ゲートウェイの向こう側」です。タイトルのセンスも、話の内容も見事で唸ったものです。後は「上長承認の必要性」「バックドアかの方から来ました」などタイトルを眺めて話を想像するだけで楽しいです。慣れてくると物語を読む前にタイトルから話を想像できて、それがはまった時には思わず嬉しくなりました。
 最後に主人公たちの魅力を。やはり主人公のミシャの明るさと前向きさが魅力です。異世界に来て覚悟や悲壮感や全能感など全く出さず、笑顔で困難を乗り切っていく様子は、読み手に、この物語をただのファンタジーではなく、日常で疲れた時の癒しの物語として受け止める事ができると思います。

 本当に最後に一言。皆さんIDとかpassはadmimとかpassword等、安易な設定は止めておきましょう。世界を救うメンテナンス要員になってしまうかもしれませんからね。

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