生きる意味と死ぬ意味と⑫




その後、竜真は父親の跡を継ぎ、医者になることに決めた。 将来の職業の選択よりも、大事なことができたからだ。 今は研修医として、忙しい毎日を過ごしている。

そして沙夜はというと、スカウトにもらった名刺を機に女優になる道を選んだ。 普段の冷静さと、演技の時の激しさのギャップを武器に人気を博す。 だが28歳の誕生日に、突如引退を決めた。

彼女にとっての生きる意味は、あの日から変わっていない。


「ごめんなさい、無理を言ってしまって。 忙しかったでしょう?」

「いやいや、大丈夫。 やっぱり引退しても変装は必要なんだね」


引退した沙夜は、いくつかのクラブを経営し生計を立てている。 天音や秋生に色々と教わり、行き場を失った人が安心して働ける場所を作りたいと願った結果だった。


「私がお店をやっているって大っぴらになると、お店の子たちに迷惑がかかるから」

「・・・沙夜って、やっぱりいい女だよな」

「ちょッ、突然何を言うの!」

「いやぁ、屋上で初めて見かけたあの日、俺の目は間違っていなかったんだなって」

「どうして気になったのか自分でも分からないって言っていたの、どこのどなたさんでしたっけ?」

「誰だろうなー、そんな不届きなこと言う奴」


二人は笑い合いながら、ある場所を目指していた。 ずっと来ないよう目を背けてきた場所、病院。 竜真からすれば馴染みの深い建物であるが、この病院には来る気になれなかった。

受付を通り、入院棟まで移動し奥の病室まで足を運ぶ。


「・・・樹亜さん」


結局、樹亜はあの日を境にして沙夜に何かをしてくることはなくなった。 いや、なくなったというのは少し違うのかもしれない。

家では猫を被っていた樹亜は、両親に『猫を川に投げ捨てた仕返しで噛まれた』などと言うことはできず、放置した結果酷く悪化した。 傷口から侵入した細菌によって、感染症を起こしてしまったのだ。

沙夜の声かけに返事はない。 呼吸器に繋がれ、目を瞑ったまま起き上がることはなかった。


「色々とあったけど、樹亜さんがいなかったら今の私はなかったと思う」


竜真は、沙夜の肩をさすりながら耳を傾ける。


「私に新しい“生きる意味”ができました。 この先どうなるのかは分からないけど、竜真と頑張っていきたいと思っています」

「沙夜・・・」

「もうここには来ません。 だから、樹亜さんには目覚めてほしい。 起きて“生きる意味”を見つけてほしい。 目覚めた樹亜さんには、それができると思っているから」


伝えたいことを伝えた沙夜は、病室を後にする。 扉が閉まるその瞬間、沙夜は樹亜のことを見ながら最後の言葉を口にした。


「ありがとう。 ・・・そして、さようなら」






                                  -END-



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生きる意味と死ぬ意味と ゆーり。 @koigokoro

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