狼の狂夢
D・Ghost works
狼の狂夢
いつの間にやら揺らめき始めた視界を見落とし、木々の隙間を縫って
少し酔うているのか。尖った枝や剃刀のように鋭利な岩肌に削られる四肢を感じ、痛みを覚え、
気は
だが、私の正気も、狂気も、
月が雲に隠れ、老いに
※ ※ ※
魚の鱗みたいに
カナヘビは僕をしばらく見降ろしてて、
「縁起がいいんじゃないの?」
彼女はそう言って両手を広げ、マニュキュアを気にしてる。ライトグリーンが彼女のお気に入り。なんでも願掛けをしてるらしい。ツルツル光沢のある爪の先が剥げ掛けてるのが素敵なんだとか言っている。
「だって、蛇とか爬虫類って金運の象徴じゃん」
「……あー、そう」
ソファーにしゃがみ込んで、ひらひら手を動かして、いろんな角度で爪を眺めてるから、熱帯地方にいるような気味悪い、派手な蝶々が部屋の中に迷い込んだみたいな気がした。その蝶からはプラスチックを噛み潰したようなケミカルな匂いがしてて、僕は窓を開けるんだけど外には物売りが卵の入った籠を大事そうに抱えていて、時折、思い出しては卵の奥底に隠した財布を
「夢占いで言ってた。
「あれはカナヘビだった」
椅子に座って資料を捲ってから、書きかけのレポートを読み返して、ざっくりと赤ペンを入れていくけど、泳いでからと言うものどうにも目が
プラスティックみたいな臭いしかしない。
資料には墨と筆で書かれた文字が並び、その大半は漢字で、読み方も現代とはちょいと勝手が違い、文法にも少々違った趣のアルゴリズムが適応されてる。とはいえ文法的なギミックはそれほど難解ではなく、容易にその習性に馴染むことはできるが、難しい点はもっと深い認識の部分に存在し、言うなれば数百年前に咲き乱れた黄色も、現代に狂い咲いた黄色も同じ花ではあるのに、片方はツヅミグサ、片方はタンポポと言った風に違えてしまう。
違えるのだ。
見えてるものは同じはずなのに、違ってしまうから僕達はいつでも真っすぐ落ちる
※ ※ ※
まず、私が、私を取り戻したのは、土の上に投げ出されてヒタヒタと痙攣した舌先からで、ざらつく砂粒と細かな土の感触が、
あの鉄砲が憎い、奴らが狂気を運んで来たに違いない。奴らに追われて行くうちに狂気に飲まれる者が増え、元々、私達が居た土地は今や禿げ上がり、死に絶えた虫の音の中を乾いた土が舞っている。逃げて逃げて逃げ回る後ろには、あの鉄の筒が
四肢に力が戻り始めている事に気づいた私は、肉体の動かし方を頭の奥の方から手繰って、まず四肢を確認するように闇雲にではあるが、ゆっくりと動かして空を掻くと、その
※ ※ ※
『
資料を訳している間は勝っていた好奇心が、次第に疑問と恐怖に削がれていくのを感じ、顔を上げた。窓の外にいた卵売りは立ち去っていて、後ろのソファには座ったまま眠る女。女は広げた手を投げ出して、その爪は赤色。僕が机に向かっている間に色を変えたのだろうか。
立ち上がり台所へ行って水を一杯飲む間、自分がどれほど水を求めていたのか実感し、背中に張り付いた、汗ばんだシャツを感じていた。日が随分と傾き始めていた。外がオレンジがかって見えた。
資料に書かれているのは、
机に置いたグラスの中で揺れる水が、西日を浴びて艶めかしく輝く影をノートに落とし、
やはりあの文面は
音を出さないように努め、女の方へ近づきながら、床に転がっていたガラスの破片を見つけ、落ちていた長い髪の毛に顔をくすぐられ、女の足の爪に塗られたマニュキュア、足の爪はペディキュアと呼ぶらしいが、こちらの色は手の方とは違い、真っ黒に塗られていて、それが妙に僕の胃のあたりを
※ ※ ※
血の味は我が身の味か、
木々の枝に隠れた夜の空が雲を抱き、孕ませた白い輝きが
爪を立てて岩を掴み、駆け上がった時、雲が割れて白く眩い月が顔を出して、俺を照らし出し、岩の下には気の振れるずっと前の仲間達が、死んだ動物の周りで欠伸をしたり、眠ったり伸びをしたり、俺は連中に帰ってきた事を知らせたくて、月に向かって吠えようとした時、山の
完
追記:近況ノートの方に解説を追加いたしました。
リンクを張っておきます。https://kakuyomu.jp/users/D-ghost-works/news/1177354054898072907
狼の狂夢 D・Ghost works @D-ghost-works
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