第40話(第1部 終話)

「えーと。コウ様の記録は334で、コウ様の勝利でございます」

「スタート地点が同じだから、思ったより伸びなかったな。400は軽く超えると思ってたんだが」

 ユグドが、俺とバアリールしか残っていない部屋の中で、中立な立場を崩さないように、ささやかに勝敗を告げる。

 ちなみに、バアリールは、この3時間放心したままである。

 だが、勝負は勝負。これで、話はわかりやすくなった。

「と、いうわけで。お前さんは、俺の手下になってもらうぞ」

 ポンとバアリールの肩を叩き、意識を強制的に戻す。

「い……、嫌じゃーーーーっ!! わしは、これ以上、忙しくなるのは、嫌じゃあああああああああああああああ!!」

 アップデート情報を出す2週間前に、突然追加コンテンツを作ることが決まった時のような心の叫びが、大陸守護神の口から盛大に漏れ出た。

 どんだけ嫌々仕事してたんだよ。

「勝負しろって言ったのは、お前さんの方だろ? ってか。そもそも、この勝負。俺が勝とうが負けようが、デメリットはなかったんだけどな」

「へ?」

『バルちゃん。人の話は、ちゃんと聞いた方が、いいよ? 普段、人の意見を聞く必要がないせいで、自分の意見を押し通そうとするから、こんなことになったんだから』

「へ?」

「あのなー。俺は、この世界の神が仕事しすぎてるから、休ませたいって考えてるんだよ」

 この言葉を耳にしたバアリールの表情は、言葉の意味が脳に浸透していくのに合わせ、少しずつ輝きを増していき、数十秒もしないうちに満面の笑顔になっていた。表情の変化に合わせて、体型もぺったんこのチンチクリン姿に戻っている。

「わし……。休めるようになるのか?」

「今すぐじゃないぞ?」

「でもでも、毎日毎日、人族の願いを叶えるために、次から次に下らぬ作業を延々と続けなくても良くなるのだよな?」

「まあ、そうだな。準備が整ったら、そういう仕事はやる必要はなくなる」

「いやー、はっはっは! わしも、そなたは、初めて見た時から、尊敬するに値する人物だと思っとったんじゃ! おぬしも人が悪い。もっと早く言ってくれたら、こんな面倒なことはせずに済んだのに! はーっはっはっは」

 手のひらクルリがひどいな、おい。

 でも。

「お前さんが話を聞かなったんじゃないか。まあ、おかげで、正式に俺の部下になってくれたわけだから、しっかり仕事はしてもらうぞ。いやー、助かったよ。俺も、仕えてくれる神がユグドだけだと心許ないと思ってたからさ。心置きなくこき使える部下が欲しいと思ってたんだわ」

 休めるとわかり、ない胸を張り出しながら、腰に手を当て高笑いしていたバアリールの動きがピタリと止まる。

「は?」

「人族を甘やかす仕事はやらなくてもいいが、人族を滅ぼすわけじゃない。裏方に回って、魔物の間引きだとか、人族へ試練を与える仕事はやってもらうからな。下手したら、今まで以上に、気を使う繊細な作業が求められるかもしれないから、覚悟しとけよ?」

『仕方ないよね。バルちゃん本人が、自分を駒として使いたいなら、勝ってみせろって息巻いた上で、負けちゃったんだから』

 バアリールに邪魔される心配がなくなっただけでなく、完全に取り込めるとは、幸先の良いスタートが切れたと言ってもいいんじゃないか?

 俺と緑山さんの言葉を聞いて、再び放心状態になってしまったのは放置して、密かに胸をなでおろす。

 とにかく、ようやく創造神イネトが生み出した神の右腕を、ユグドも含めて2本減らす目途が立った。まだまだ減らさなければならないが、それは、次の話としようじゃないか。

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神の右腕、何本までなら許される? おとのり @otonori

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