第39話
ヴァルト達を相手に情報収集しているだけで、時間はあっという間に過ぎた。
バアリールがモンスター討伐に出向いて3時間。そんなに遠方まで行っていなかったのか、15分もせずに帰還してきた。
「さあ、ユグド。わしの成績はどうだった?」
自信満々な様子のバアリールは、戻って早々に問いかける。
「バアリール様の討伐数は、全部で65との報告でございます」
ユグドが答えると、周囲から感嘆の声が上がった。
感心しているのは、バアリールの眷属達である。
普段、ヴァルト達が1日で討伐するのが、多くて120程度、平均だと80から100くらいのものだと考えると、3時間で65というのは、確かに多い。エリアを大陸全土に広げているとはいえ、多すぎだ。3分に1体以上の成績である。
少しは手加減しろと物申したい。
……が。
まあ、予想以上というわけでもないので、問題ないか。
「さあ、おぬしの番じゃぞ?」
バアリールは、すでに勝ったつもりなのか、大きな乳を更に強調するように張り出しながら、俺に視線を向けてきた。本来は、ぺったんこだからなのか、やけにたゆんたゆんさせているのは、ちょっとだけイラッとする。
「わかったよ。ちゃちゃっと終わらせよう」
「では。すぐに始めてもかまわないのですか?」
「いいよ。どうせ、ウィンドレッド周辺を重点的に潰してきてるんだろ? 俺が行っても、見つけられないだろうからな」
「なっ!? なぜ、それを!」
俺の言葉に、バアリールが驚いてみせる。図星だったらしい。
「わかりやすいヤツだなあ。勝ちにこだわるなら、俺が向かう場所を優先的に狙うと考えるのは自然だろ?」
「ふ、ふん。確かに、そのくらいは、誰でも予想できるな。しかし、それがわかったところで、おぬしの能力が向上するわけでもあるまい。今すぐ負けを認めるのなら、わしも少しくらいは譲歩してやっても良いのじゃぞ?」
どうやら、自分の行いが、小狡いやり口という自覚があったらしく、神として後ろめたさを今さら感じているとみえる。
「いや。むしろ、それで良い。お前さんが、ウィンドレッド周辺を重点的に攻めてくれた方が、勝算があったからな」
「ほえ?」
ニヤリと笑みを浮かべた俺に、バアリールを始め、その場に集まった全員が怪訝な目を向けてきた。
「言ったよな? お前さんの眷属に頼みたいことがあるって」
続けて発する俺の言葉に、ギョッとした視線をバアリールが向けてくる。
「決めたよな? 自分が討伐に向かう時には自分の配下、眷属には手伝わせないって。そして、誰が魔物を討伐しなければならないかは、明確に決められていない」
俺の言葉の意味が、じわじわと理解されたのか、バアリールの表情は、困惑と混乱が入り乱れたものになっていく。
「バアリールの眷属に命じる! これから3時間、俺の代わりに大陸全土の魔物を討伐出来るだけ討伐してこい! ウィンドレッド周辺以外には、まだまだ魔物の脅威に怯える人族がいるはずだ。根こそぎ退治してこい!」
「「「「「「「え!?」」」」」」」
「そ、そんなのズルよ!」
「失礼だなあ。ルールを決めて、そのルールの中で最善を尽くす。それが勝負ってものだ。だから、お前さんも、俺がせいぜい討伐できる魔物が現れるウィンドレッド周辺を重点的に攻めたんだろ? まあ、おかげで、その場所に縛られた結果、討伐数は損してると踏んでるが……」
「ぐっ……」
『だっひゃっひゃっひゃ! バルちゃん、諦めなよ。コウさん相手にゲームで勝つなんて、僕だって難しいんだから』
「でも、緑山さん。この方法、気づいてましたよね?」
『え? ああ、まあね。自分が有利になるルールを何食わぬ顔で追加するのは、コウさんの常套手段だもの』
「なっ!? 父ちゃん、知ってたのか!?」
『むしろ、こんなにわかりやすい抜け道に気づかなかったバルちゃんに、驚いてるくらいさー。バルちゃんが、こっちの世界に来たら、説明書、読まないタイプだよね、きっと』
同感だ。
「さあさあ。固まってないで、行った行った。3時間なんてあっという間だぞ」
愕然としているバアリールを放っておいて、俺はヴァルト達をけしかけるのだった。
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