第38話

「本当に、よろしいのですか?」

 先攻をバアリールに譲ったことに対し、ユグドも驚きながら尋ねてきた。

 討伐を眷属が止めている関係で、フィールドにモンスターが増え始めてはいるものの、先攻のバアリールが数を減らした後に、すぐ増えるとも限らない。

 先攻後攻で、どちらが不利かと聞かれたら、おそらく後攻であろう。

「いいよ。どっちみち、俺が戦っても勝てる相手なんか、ウィンドレッド周辺にしかいないんだから。その辺の魔物なら、インターバルの間に増えるだろう」

「くっふっふー。後で文句を言っても、知らぬぞ?」

「はいはい」

 ダークエルフの里の中央がスタート地点に決められた都合で、来た時の大人の女性バージョンに切り替わって腕組みしている。組んだ腕の上に、乳がずっしりと圧し掛かっているのは、たぶん、わざとだろう。

「では。制限時間は3時間。討伐数は、わたしが精霊の報告をもとにカウントいたします」

 互いに準備も終わったところで、開始の合図を待つばかりとなった。

「そうだ。バアリール。始める前にいいか?」

「なんじゃ?」

「手伝ってもらいたいことがあるから、お前さんの眷属を集められるだけ集めてもらっていいか?」

「不測の事態に備えて、何人かは待機させておかぬといかんから、全員は無理じゃぞ?」

「それで構わないよ」

 俺の要請に、不思議そうな顔になりながらも、素直に眷属を呼び集めてくれた。

「近くにいる者はすぐに来るじゃろうが、北の方の眷属は、少し時間がかかるじゃろう。それでも、わしが魔物退治している間に来るじゃろうて」

 言ってるそばから、近くのエリアを担当している数人が駆けつけてきた。

「すまんな。そこのコウ殿が、何やら用事があるようじゃ。手伝ってやれ」

 俺と面識があるヴァルトに命じると、俺に視線を向けてきた。

「これで良いか?」

「ああ、助かる。サンキュー」

「ふん。ユグドよ。わしはいつでも良いぞ」

「コウ様も、始めてよろしいでしょうか?」

「おう。問題ない」

 こうして、緩い雰囲気のまま、勝負は始まった。


「行ったな」

 風の大陸の守護神の名は伊達ではなく、まさに疾風といった速度で飛び去ってしまった。

 あの速度に人の身で勝てるわけないだろ。

「おーい、ヴァルト」

「はっ! なんでございましょうか?」

「バアリールって、転移魔法か転移スキルみたいなの使える?」

「使えますが、転移魔法はどこでも自由に移動できるわけではございませんので、我々同様、自分の足で移動することが多いですね。今回も、おそらく、地道に走り回っておられるかと」

「怠け者なのか、頑張り屋さんなのか、わからんキャラだな」

 俺のつぶやきに答えたのはユグドだった。

「バアリール様は、どちらとも、ですかね。端的に申しますと、気分屋、と評するのが妥当かと」

「あー。なるほど」


 バアリールがモンスターの数を減らしていく中、ダークエルフの里でのんびり過ごしていると、制限時間も半分が過ぎた頃に、ヴァルトに声をかけられた。

「コウ様。呼ばれた眷属がそろいました。何をお手伝いすれば、よろしいのでしょうか?」

「思ってたより、時間かかったな。いや、大陸の端から端だったら、めちゃくちゃ早いか……」

 ヴァルトに呼ばれ、バアリールの眷属達が待っている場所に向かうと、13人の戦士が待っていた。

 ただ、中には戦士ではない者も混ざっているようだ。

「全員が、魔物討伐に明け暮れているわけじゃないんだな」

「バアリール様は、大陸守護神だけでなく、豊穣の女神でもあらせられますので」

「そういうことね」

 どうやら、人族の願いに応えて食事を用意するのが、目下の仕事らしい。他にも、日常生活品を用意したり、ケガの治療をしたりすることもあるようだ。

「それじゃ、バアリールが帰ってくるまで、色々話を聞かせてもらいたい。皆が抱えている不安、不満、要望だけじゃなくて、この大陸について知っていることを、何でもいいから教えて欲しい。とは言っても、何を話していいのかわからないだろうから、こちらから質問させてもらいたい。いいかな?」

 個人面談をやるよりも、雑談みたいな感覚の方が、情報も集めやすかろう。

 ただ待つのも時間の無駄だ。

 バアリールとの勝負もあるが、その後のことを考えた方が、建設的というものだ。

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