第37話

「さあ、勝負を始めるわよ!」

 銀の髪を腰まで伸ばした、幼女卒業したてくらいの美少女の甲高い声が響いた。


 ビシリと俺に指を向けてくる美少女こそ、バアリールだ。

 予定通り、ダークエルフの里にやってきた時は、こんなチンチクリンではなく、大人の魅力漂う絶世の美女だった。

 エルフがこぞってフィギュアの出来を競っていたのも頷ける神々しさを遺憾なく発揮して、住民を平伏させたものである。

 ところが、一通りダークエルフ達からの歓待を受け、室内に移動して俺との面談になった途端、萎んでしまったのだ。


「ふー。やっぱり、こっちの方が落ち着く」

 見た目に合わせ、服装も変化してしまっている。女神らしさを感じることもできない、上下スウェットのような姿。容姿端麗なところは変わらないので、何ともアンバランスに感じてしまう。

「バアリール様。コウ様の前で、はしたないですよ」

 ユグドはこの姿の方が馴染みがあるらしく、慣れた様子だ。

「えー。でも、この人、父ちゃんの知り合いとは言っても、ただの人間だよね?」

 返答も待たずに、ソファーに寝そべってしまっている。見た目が小学生なだけに、呆れはするものの、許せてしまう。

 そもそも、俺がただの人間なのは間違っちゃいない。まあ、この体がただの人間のものと呼んでいいのかは、別の話として。

「そうは申されましても。御父上から、最優先で従うように命じられておりますので」

「え? ユグド。父ちゃんと話したの?」

 ユグドの言葉に、バアリールは猫の耳がピンと立つような反応を示した。

「はい。先日、ちょうど、この里をコウ様と訪ねた時に」

「何それ、ズルい!」

 ずいとユグドに迫りながら、拗ねた声を上げる。ユグドも、エルフの姿なので、ロリっ子がロリっ子に詰め寄っている雰囲気だ。

「そうは申されましても」

「何だ? 緑山さんと話がしたいのか?」

 見た目の通り、甘えたい年頃なのか? それならと、すぐに行動に移る。

「ちっ、違うし! ふらっと消えたと思ったら、突然やってきた人間が、父ちゃんの右腕とか言われて、ムカついてるだけだし!」

「と、言ってますよ?」

『えー? バルちゃん、寂しかったの? まだ、そんなに時間経ってないでしょ?』

「ちょちょちょちょちょ……。この声は、父ちゃん!?」

「よかった。広域チャットの機能、ちゃんと生きてるみたいです。にしても、そんなに時間経ってないって、250年も離れてるんですよ?」

『何言ってるんだい。その子も神だよ? しかも、原初の1柱。250年なんて、些細なものさ』

「そういうものなんですか?」

『そういうものなんだよ』

「そういうものじゃなーい! 父ちゃんがいなくなったせいで、めっちゃ忙しくなったんだぞ!? これ以上、仕事増やすなー! あたしを駒にしたいなら、勝負だ!」

「は?」

『は?』

「え? いや、バアリール様?」

「四の五の言わせないぞ!? ただの人間が、神を従えようっていうんだ! どんな勝負でも、勝ってみせろ!」

 ふんすと、鼻息荒く宣言してしまった。

 仕事しないように頼むのが目的だったのだが?


「勝負は、魔物退治。シンプルに、どっちがより多くの魔物を退治できるかだ」

「おいおい。それじゃ、勝負にならないぞ? 少しは、俺の勝てそうな勝負にしてくれよ」

「ダメじゃ。これ以上、仕事を増やされてはかなわん」

「いや、だから……」

「ルールは先攻後攻で魔物を退治して回る。眷属達には魔物退治を一時辞めさせておるから、すぐにでも始められる」

「人の話聞かないヤツだな。神様らしいっちゃ、神様らしいが……。じゃあ、せめて、ルールを追加させてくれ」

「む? どんなルールじゃ?」

「自分が討伐に向かう時には、自分の配下、眷属には手伝わせない、だ。お前さんの眷属は、専門家だからな」

「ふむ。よかろう。元々、わしがひとりで相手するつもりだったからな。それで? おぬしの配下や眷属はいるのか?」

「俺? 俺には誰もいないよね?」

『そうだね。強いて言えばユグドだけど。それも、僕が頼んでやってもらってるだけだから、直接はいないかな。それにしても、コウさん、本当に相手するの? 負けてもらっちゃ、色々面倒なことになりそうなんだけど』

「やらなきゃ、話聞いてもらえそうにないですからね」

『じゃあ、審判は、ユグドがやってあげなさい。バルちゃん、精霊とのつながりを、一時的にユグドに譲渡しなさい。精霊も、形式上はバルちゃんに従属してるから、配下扱いになっちゃうからね』

「精霊も配下扱いになるなら、仕方ないわね。でも、精霊の協力がなかったら、魔物を見つけられないわ。索敵は引き続きやってもらって、どちらにも協力してもらうなら、問題ないわよね?」

『うん。まあ、それなら、一応公平かな?』

「レベル1の人間が、神様相手にするだけでも、ハンデを要求したいんですけど?」

『じゃ、コウさん、がんばって!』

「おい、創造神。軽いな」

 

 というわけで、風の大陸の守護神を相手に、勝負をしなければならないことになったわけである。

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