第36話

 バアリールとの面会は、提案通り3日後で了承された。

 ダークエルフ達は、突然の大陸守護神の降臨に備え、慌ただしく準備を始めたが、俺はユグドと一緒にヴァルトとのんびり過ごすことになった。


「ヴァルト達は、1日にどのくらいの魔物を退治してるんだ?」

 武装を解除したヴァルトは、思っていた通りの筋骨隆々の体をしていた。ベースとなる種族はオーガらしく、兜から突き出していたツノは、額の辺りから生えている。他は、肌が赤味を帯びている以外に人間と大差ない。人間族では見かけない巨漢ではあるが、オーガとしては並、もしくは小さめの体型らしい。

「わたくしの任されている地域ですと、1日に多くても120くらいです。場所によって魔物が現れる数にバラつきがありますので、30から180といったところではないでしょうか」

 ヴァルトは、武装を解除していることが落ち着かないのか、単純に、俺とユグドを相手にするのに緊張しているのか、大きな体を縮めながら答えてくれた。

 最大でも180という数字が多いのかはよくわからんが、この世界とゲームの世界では広さが違う。緑山さんも、そこまで忠実に再現するつもりはなかったらしく、体感的にこの世界の方が数倍広い。しかも、転移魔法があるせいで、その辺も正確に比較しにくいのが厄介だ。

 それでも、眷属ひとり当たりが担当するエリアを四国くらいの広さがあるとイメージすると、ポップ数は非常に少ない。

「場所によって、か。それは、この大陸だと、北に行くほど数は少なくなる、とかか?」

「まさに! 多少、誤差はありますが、その通りでございます」

 ヴァルトは、俺の推察に瞠目して驚いてくれた。

 単純に、ゲーム内のスタート地点が南に設定されており、プレイヤーはレベルを上げながら北を目指すデザインになっている関係上、北に行くほどモンスターが強くなるからで、強いモンスターほど出現率が低くなるだろうと思ったまでだ。

 誤差というのは、始まりの街であるウィンドレットの辺りが最もポップが多く、そこよりも南にあるダークエルフの里辺りになると、少し減るということだろう。

「じゃあ、北に出現する魔物の方が、手強いと考えて良いのかな?」

「その通りでございます」

 ふむふむ。行動パターンは別物だろうが、ステータス的なものは、似た感じと考えていいかな? その辺は、実際に見てみないと判断は難しいか?

 しかし、タマゴが先かニワトリが先か問題だな。

 この世界をベースにゲームを作ったのか、ゲームをベースにこの世界を創ったのか、わからんな。緑山さんの話だと、この世界をベースにしたってことだったけど、怪しいものだ。

「魔物を放置しておくと、どのくらいのペースで増える?」

「そうですねえ……。わたくしどもが討伐するようになってからは、見逃すことがなくなりましたので、正確なことはわかりませんが、一度退治し尽したら、しばらくペースは落ちます。なので、しばらく放置しておけるのですが、出現するときは一気に、だいたい半日くらいでしょうか、で増えます。そして、一定数増えると、それ以上はまた、あまり増えなくなります。ただ、過去の経験から推察すると、その状態が長く続くと、突然魔物が魔物を増やすスタンピードと呼ばれる爆発的な増加現象が起こる可能性が高まります。そうなると、大地を埋め尽くすほどの大軍勢になってしまいます」

 そんな設定あったなあ。

 プレイヤーが一定数進出しているエリアで、モンスターの討伐数が一定期間滞ると、突然スタンピードが発生して一番近い街や集落を襲うという隠しイベント。ゲーム内であれば、街や集落が崩壊することもなく、プレイヤーの経験値稼ぎの格好の機会となるが、この世界では一大事だろう。

「スタンピードが発生した時は、どうしてたんだ?」

「あれが起こる地域は限定的ですので、バアリール様を先頭に、わたくしども眷属も総出で対処いたしました」

「それでも駆逐するのに3日もかかりましたよねえ。酷い時は、1週間ほどかかりましたか」

「ありましたなあ。その節は、ユグド様にもご協力いただきましたね」

「バアリールも戦うのか?」

「守護神ですからね」

「そりゃ、そうか。ヴァルト達より、強いのか?」

「単純なステータスだけでしたら、我らより多少強い程度ですが、スキルや魔法といった部分まで加味しますと、手も足も出ませんね」

「なるほどねー。ところで、ふたりの話ぶりからすると、何度もスタンピードは発生してるみたいだが、どのくらいの頻度だったんだ?」

「人族もスタンピードの脅威は理解していましたので、数百年に一度くらいでしたか? ただ、この大陸はエルフが長命で伝承が残りやすいため、他の大陸よりも発生頻度は少ないと聞いたことがあります」

 そういうところは、さすがにゲームと違うな。ゲームの場合は、その辺の確率はそろえるものだ。

「それじゃあ、スタンピードが起こらないギリギリの飽和数だと、どのくらいだと考えている?」

「それは……、難しい質問ですね。あれは、数うんぬんで発生するとも限りませんので」

「ああ、正確じゃなくてもかまわないよ。感覚的なものでかまわない」

「で、ありましたら……。ひとつの種族が一か所に集中して200ほどの群れになった頃でしょうか? そのくらいになると、群れにキングなりクイーンなりが誕生する目安となりますので」

「それは、大陸全土、もしくは、地域全体だと、どのくらいの頻度で魔物を見かける状態だ?」

「街や村が、絶えず魔物の脅威にさらされる状況かと」

「なるほど、なるほど……」

 ギリギリ耐えられそうだな。そこまで増えるのも、少なくとも数か月、楽観的観測だと数年から数十年かかるだろうし、準備も間に合うだろう。とはいえ、保険はかけておかなければならないので、北の方のモンスターは増やし過ぎるのは避けた方が賢明か。

「ありがとう。有意義な時間になった。また訊きたいことができたら、頼む」

「はっ!」

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