――“利己”で押し通す主人公が、気づけば他者を救い、組織を変えていく。その逆説の快感が、この物語だ。
本作は、異世界転生×組織運営という掛け合わせを、単なる思いつきに終わらせない。
主人公は終始「地位と財布を守る」ために動くが、その計算ずくの一手が、制度を整え、働く環境を改善し、人が育つ土壌を耕してしまう。
読者は「え、そこでそっちを選ぶ?」という損得勘定の妙に笑わされつつ、結果として生まれる人の再起と関係の修復に胸を掴まれる。
ここには、ご都合主義の力押しではなく、「人はどうすれば動くのか」を丹念に観察した説得力がある。
魅力はキャラクターにも宿る。
取り巻く面々は“駒”ではなく、それぞれに傷と矜持を持つ生活者だ。
視点が切り替わるたび、同じ出来事が異なる意味を帯び、主人公の行為が誰かの希望へ転化していく立体感が生まれる。
章題の統一感と軽妙な語りは読み口を軽くしつつ、行間には現実的な経営感覚――評価、分配、育成、連携――が通底しており、ファンタジーでありながら仕事小説としての芯がブレない。
何より、作者は“善人化”に逃げない。
主人公は最後まで自分の利益で意思決定をする。にもかかわらず、結果として理想に近づく。
そのズレが、可笑しみと人間味を同時に立ち上げる。
理想と現実、利己と利他が拮抗する場面ほど、言葉の強度が増し、物語は一段深くなる。
異世界の冒険譚を楽しみながら、「良い組織とは何か」「信頼はどう生まれるか」を自然に考えさせられる稀有な内容だ。
「笑えて、考えさせ、温かい余韻で締める」
エンタメの三拍子が過不足なく決まり、読み終えた後には「このギルドで働きたい」と本気で思ってしまう。
異世界転生の賑やかさの裏に、確かな人間理解と運営哲学が通っている――熱心な読者ほど、その仕立ての細やかさに頷くはずだ。
なにしろテンポが良いです!
軽妙な文体がこういう作品はとてもマッチしていると思います。
読み込んでいた小説世界に入りこんだら即保身のためにフラグを折る!
大事ですね。とても大事。
そして保身のためにやっていることなのに、それが回りの好感度を上げまくる。
そのあたりも超絶ご都合主義なわけでもなく、「そりゃ見方によってはそう受け取るよね」というところが丁寧に描かれています。
いや、作者は全部計算の上でそうしているわけですが、読んでいてそのあたりに強引さがないのもとても好感度高いです。
主人公が自己中っぽい動機でやっている言動も、転生先のキャラが悪徳キャラなおかげで軌道修正すればするだけプラスに影響していく展開は読んでいてとても気持ちがいい。
ファンタジー作品でありがちな設定・説明しすぎて話が展開しないなんてこともなく、文体だけでなく各話のリズムが気持ち良いくらいハマっているので、是非みんな読んでみてください!