【カクヨム呪いの小説】アナタガイル

山根利広

そこには、あなたがいる。
























 見慣れない、真っ黒な広告。




 午後11時に差し掛かったところだった。菜摘なつみが、お気に入りの連載小説の最新話を読み終え時だった。「次のページへ」の上部に、その広告が鎮座していた。


 最初のうちはバグだと思った。しかしながら、よくよくその黒い部分を覗き込むと、右下に小さく「アナタガイル」と書かれていたのだ。


 大きな椅子に座っている菜摘の首。その後ろを、冷たい風がひゅっと潜り抜けた。


 菜摘は慌てて振り返る。部屋には菜摘以外に誰の姿もない。ただ、部屋の窓がわずかに開いているだけだった。外側から風が吹き込んだのだ、と自身に言い聞かせながら、窓を閉めた。


 部屋の明かりが窓を鏡面にして、菜摘の姿を半透明に写し出していた。窓に映った自分の顔を覗き込む。窓に映った自分の顔は、少しやつれているように見えた。


 と、窓に奇妙なものが浮かび上がっているのに気がついた。







 黒い影。長い黒髪をだらんと垂らしたこうべ。








 菜摘は息を飲んで、振り返った。呼吸が荒くなり、肩が大きく上下する。


 しかしそこには真っ白な壁があるだけだった。


 菜摘はカーテンを隙間なくぴしっと閉めて、スマートフォンに向き直った。まだあの広告が映り込んでいた。


 なにかが、うごめいた。視界の奥、スマートフォンの後ろ側。そこには中学時代の友人と撮った集合写真が掛けられていた。


 楽しげにポーズを撮っている五人組。が、その時ばかりは、それは菜摘の恐怖心を扇情させるだけだった。


 菜摘は写真をひっくり返した。それでもまだなにかが部屋の中にいるような気がして、部屋のライトを落とした。


 ただ単に黒い広告を見ただけなら、彼女は身震いすることはなかっただろう。彼女を恐怖に陥れたのは、放課後の教室で聞いたとある噂話だった。







 ——呪いの小説がある、って、知ってる?


 ——どうしたの、急に。


 ——ちょっとだけ、聞いて。……「アナタガイル」っていうタイトルなんだけど、新着小説の中に、ひっそり紛れ込んでるんだって。でね、それを読み始めたら、一気に最後まで読まないと、殺されちゃうらしい。


 ——じゃあ、もしその小説を読んだら、最後まで読めばいいじゃん。


 ——そうなんだけど……、とてもじゃないけど、最後まで読めないの。その小説には、読んでる人のことが、こと細かに書いてある。誰かに覗き見られてるっていうか……そんな感じ。


 ——でもさ、なんでそんなにびくびくしてるの? どうせ都市伝説でしょ、それ?







 ——あたしね、読んじゃったの、その小説。









 スマートフォンはぼうっとした光を放っていた。まだ不気味な広告がある。


 暗がりの中で、自分の心臓の高鳴りだけが聞こえる。いよいよ耐えきれなくなった菜摘は、「戻る」をタップした。


 しばらくローディングの時間が空いた。



 そこに出てきたのは、とある小説の本文だった。










 アナタガイル









 スマートフォンが床に抜け落ちて、菜摘は右手で口を覆った。しかしまだわずかに残された彼女の理性が、すぐさまスマートフォンを拾わせた。




 ——最後まで読まないと、殺されちゃうらしい。



 菜摘は震える人差し指で、画面を恐る恐るなぞり、下へと進んだ。






























    そこには、あなたがいる。


 








 見慣れない、真っ赤な広告。


 あなたが、お気に入りの連載小説を読み終えた時だった。レビュー欄の上にその広告が鎮座していた。


 最初のうちはバグだと思った。しかしながら、よくよくその赤い部分を覗き込むと、右下に小さく「アナタガイル」と書かれていたのだ。


 あなたは何かおかしい、と感じている。あたかも偽の記憶を植え付けられたような気がしている。だがいまのあなたは、それを否応なく呑まなくてはならなかった。


 大きな椅子に座っているあなた。その後ろを、黒い影がひゅっと潜り抜けた。


 あなたは慌てて振り返る。部屋にはあなた以外に誰の姿もない。ただ、部屋の窓がわずかに開いているだけだった。外側から風が吹き込んだのだ、と自身に言い聞かせながら、窓を閉めた。


 部屋の明かりが窓を鏡面にして、あなたの姿を半透明に写し出していた。


 と、窓に奇妙なものが浮かび上がっているのに気がついた。






 長い黒髪をだらんと垂らしたこうべ。髪の間からあなたを覗き込む白い両目。







 あなたは息を飲んで、振り返った。呼吸が荒くなり、肩が大きく上下する。






 そこには中学時代の友人と撮った集合写真が掛けられていた。長い黒髪をだらんと垂らしている友人たち。






 あなたは写真をひっくり返して、部屋のライトを落とした。


 ただ単に黒い広告を見ただけなら、あなたは身震いすることはなかっただろう。あなたを恐怖に陥れたのは、とある噂話だった。








 ——「あなたがイル」というタイトルの小説は呪われている。新着小説の中に、ひっそり紛れ込んでいる。


 ——それを読み始めたら、一気に最後まで読まないと、殺される。その小説には、読んでる人のことが、覗き見でもされたように、こと細かに書いてある。








 ぼうっとした光を放つ画面には、まだ不気味な広告がある。



 暗がりの中で、あなたの心臓の高鳴りだけが聞こえる。いよいよ耐えきれなくなったあなたは、「戻る」をタップした。



 しばらくローディングの時間が空いて出てきたのは、とある小説の本文だった。














 あなたがいる







 スマートフォンが床に抜け落ちてあなたは右手で口を覆ったがまだわずかに残されたあなたの理性がすぐさまスマートフォンを拾わせた。最後まで読まないと殺されるからあなたは震える人差し指で画面を恐る恐るスクロールした。











































最後までス ロールで ますか? 【カ ヨム呪 の 説】



    あなたが要る 


      ■この小 の楽 み ①必 ひとり お読みく  い。 部 を暗く  、ス  トフ  で 読みください。  は、あなたが要る 見   、真 黒  告。午  1時 差し掛   とこ だった あなたが、新着小  で、ずり とべ並られ タ ルを眺めてイル時だ た新 説ランングに挟 部に広告が鎮座 た最初 バグ 思し ら、よ の黒イ部分覗右下小 く「あなたが要る」と書大き 椅子 座っ イル あなた首後冷た 風 が ひゅ 潜抜 あなた慌て振返部屋に あなた 外に誰姿も部屋窓が僅に開い呪外側風が吹呪、呪身に言い聞かせな呪がら、窓を閉呪た。部屋呪明かりが窓鏡面に呪呪あなたの姿を半透明に呪呪出していた窓に映った自分の顔を覗き込むあなたが要る窓に映ったあなたが要るの顔は 少しやつれているように見えた 窓に奇妙なものが浮かび上がっているのに気がついた
















 長い黒髪をだらんと垂らしたあなた







 

    が、近づいてくる

 


 ゆっくりと あなたの家の玄関の戸を開く




 最後まで読まなければ  れる、あなた








 ゆっくりと、あなたの部屋の扉を叩く
















 あなた




















 あなたが いる


































 あなたの手に握り締められた画面の中に



























 あなたが





   とらわれて


  いる





























































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【カクヨム呪いの小説】アナタガイル 山根利広 @tochitochitc

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