第8話、状況描写の書き方

 講師時代、生徒が、よくボヤいていました。

「 情景描写は、何とか書けるんだケド・・・ 」


 そう、状況描写が苦手・・・


 書けないワケではありません。 書くと、どうしても説明的になり、ダサくなってしまうのです。

「 何となく、自分の文体に自信が無い・・・ 」

 そう言う生徒の文章構成にも、やはり、説明的な状況描写の存在がありました。


 何を基準に、説明的と判断するのか。


 これは、大変に難しい事です。

 私にも趣味・嗜好がありますし、常識の範囲も、自身で「 普通だ 」と思っているだけで、実は、非常識なのかもしれません・・・

 誰が判断するのか、その監督者の選択は、あなた自身の判断しか無いでしょう。

 あなた自身が、「 このヒトの言う事は、正しいと思う 」、もしくは、「 この作者の文体を手本としてみよう 」と思った方のものを、参考にしてみれば宜しいかと。


 さて・・ あなたが、私の描写力を認めるかどうかの判断は、お任せするとして・・・

 この場では、私なりのレクチャーをさせて頂きますので、ご参考に。

 『 表現力 』の章で、例文にて、簡単にご説明致しましたが、ここでは詳しく記述致します。


 前章でも触れましたが、状況描写の書き方例としては、『 カッコ良く、書かない 』・『 経験・知識を、知らないまま書かない 』です。

 よく分からない方・経験が無い方向けに、以下、ロープレしてみましょう。 また陳腐な文章・アレンジ例と、なり得るかもしれませんが、ご容赦を・・・


 例文は、航空機の戦闘シーンです。

 当然、戦闘機に搭乗した経験がある方は、いらっしゃらないかと思います。 しかし、戦闘機のシステム・スペックに関しては、ご興味がある方は、かなりの知識量をお持ちのはずですから、それなりの状況を『 想像して 』書く事が出来るかと。


 実は、この『 想像して 』が、ヤバイのです・・・


 当然、手前味噌宜しく、コアな説明になりますし、作者さんにしてみれば、『 してみたい! 』ですよね?

 この『 説明的、オタク状況描写 』が、読者にとっては、大変にウザイのです。 ワクワクして読み進めるのは、趣味・嗜好を共有する、ほんのわずかな方たちだけでしょう。

 操縦・戦闘に属する『 業界用語 』を登場させても、全く知識・興味が無い読者の方たちが、ある程度、想像して読み進められる状況描写にする為には、やはり『 カッコ良く 』書かない事に限ります。

 では、ロープレをしてみますね。



『 右上空、2時の方向にB2ファイア! 』

 コントロールパネルに、単独行する敵機のフリップが表示された。

 B2ファイアは、亜光速を誇るトルメニア軍の戦闘機である。

 イリジウム・ウラン化合物を燃料とし、加速から最高圧まで24秒。 成層圏においてもエンジン出力のトルク波は無く、電子制御のパワーユニットによる熱交換システムは、常にハイレベル・ゾーンにある。 全長も25メートルとコンパクトな割りに、飛行距離が長く、迎撃・攻撃、どのミッションにも対応する。 単座だが、複数の兵装があり、後方に、レーダーによる自動追尾式の20ミリバルカン砲、機首には17.5ミリのチェーン・ガン、両翼にサイドワインダーを4発、装備している。

「 フィーネ、他に僚機は? 」

 俺の愛機に搭載してある飛行コンピュータ『 フィーネ 』は、リンテル社製のR3-177だ。 ただ、ICP回路にフルスペックの解析データを装備したコンプリートタイプで、更に、情報システムには、改造屋から入手した解読回路が増設してある。 おそらく、隊の中では、中隊長機の『 ダイアナ 』以上の能力を保持しているだろう。

 フィーネが答えた。

『 目視では不可能と思われますが、左後方、2キロ先の同行度8時に、もう1機います 』

「 敵か? 」

『 はい。 レーダー・チェッカーによれば、同型機の模様です 』

 偵察か、索敵か・・・

 いずれにせよ、B2ファイアを2機まとめて相手するのは少々、難易度を要する。

 突然、フィーネが叫んだ。

『 左、同行度よりミサイル検知! 発射3秒間隔の2発! 』

 早速、仕掛けて来たようだ。

 多分、この2機は連動している。 フィーネが察知出来ない周波数でのコンタクトとなると、おそらく衛星を介したデジタル波・・ β‐12通信だろう。 インテリジェンス通信システムを有しているからには、親衛隊直属の攻撃隊機の可能性がある。 ここいらの空域に、出没するようになったか・・・

『 一撃目の、回避行動に入ります。 宜しいですか? 』

 こちらが回避行動を取った方向に、前方の敵機が回り込んで来る・・・!

 一度は、前方のヤツに、後ろを見せる事になるが、攻撃される前に下方反転して側面に出るか・・・

 俺は、操縦桿を倒し、ラダー( 足元にある方向舵の制御アクセル )を踏みながら言った。

「 フィーネ! ミサイルの反応方式を調べろ! 熱源式か? 」

『 ・・1発目は熱源式! 後続は、レーダーによる誘導式です! 』

 連中が搭載している索敵レーダーは、おおよそ100メートルの解析能力だ。 普通に旋回すれば捕捉されてしまうが、スライド飛行を含めた旋回や、失速気味の急降下などは、レーダーの解析能力を外れてしまう。 それを可能にする操縦に関しては、相当な腕を要するが、フィーネの解析能力を加味して当たれば、充分に可能な域だ。

 俺は叫んだ。

「 フィーネ! ワザと失速させる! 復帰角度を計算しろ! 」

『 了解! 』


 すみません・・ 本来は、この後が本当の戦闘シーンなのでしょうが、ここいらで中座させて頂きます。 こりゃ・・ 書いていてホント、疲れますね。

 ここまで細かく説明的にすると、さすがに閉口される方が多くなると思いますが、作者側としては、書けば書くほど、まだ足りないと思う心境になります。 「 足りないと思うのであれば、1本、線を消せ 」とは、絵画の巨匠パブロ・ピカソの名言ですが、まさに、それを実行すべきでしょう。


 とりあえず、ミリタリー趣味の方向けに航空機の戦闘シーンとさせて頂きました。 これがパワード・スーツとか、異世界モードのアイテム説明とかになれば、更なる『 専門用語 』が入り、やりたい放題の創作となるワケですが、現実的・SF的な作例でも、『 体裁 』をカッコ良く書こうとすると、どうしても説明的な文体となります。 これでは、状況描写を加える余裕がありません。


 では、これを、私なりに再編成致します。



『 右上空、2時の方向にB2ファイア! 』

 コントロールパネルに、単独行する敵機のフリップが、白い点滅で表示された。

「 亜光速を誇る、トルメニア軍の主力戦闘機か・・ 後部に、レーダーによる自動追尾式の20ミリを装備してるヤツだな? 」

 俺は、コクピットの外に見える海を見渡しながら呟いた。

 友軍の、絶対制空権内であるこの海域で、戦闘機の単独飛行は、まずあり得ない。 飛行距離から推察して、おそらく半径、約数100キロ圏内に、大型の航空母艦がいる・・・ コイツは、艦載機だ。

「 フィーネ、他に僚機は? 」

 俺の愛機に搭載してある飛行コンピュータ『 フィーネ 』は、リンテル社製R3-177のコンプリートタイプだ。 音声は、女性仕様。 非常に優秀な上、各システムには、更なる増幅改造が施されている為、おそらく、隊の中では、中隊長機の『 ダイアナ 』以上の能力を保持している事だろう。

 フィーネが、即答で答えた。

『 目視では不可能と思われますが、左後方、2キロ先の同行度8時に、もう1機います 』

「 敵か? 」

『 はい。 レーダー・チェッカーによれば、同型機の模様です 』

 偵察か、索敵か・・・

 ううむ・・ B2ファイアを2機まとめて相手するのは少々、ヤバイな・・・

 突然、フィーネが叫んだ。

『 左、同行度よりミサイル検知! 発射3秒間隔の2発! 』

 早速、仕掛けて来たようだ。 どうする・・?

 おそらく、2機は連動しているだろう。 こちらが回避行動を取った方向に、前方の敵機が回り込んで来る・・・!

 一度は、前方のヤツに、ケツを見せる事になるが、攻撃される前に下方反転して側面に出るか・・・

 俺は、操縦桿を倒し、ラダー( 足元にある方向舵の制御アクセル )を踏みながら言った。

「 フィーネ! ミサイルの反応方式を調べてくれ! 熱源式か? 」

『 ・・1発目は熱源式! 後続は、レーダーによる誘導式です! 』

 連中が搭載している索敵レーダーは、おおよそ100メートルの解析能力だ・・ 普通に旋回すれば捕まるが、小回りすれば、レーダーの解析レベル以下になる。

 俺は叫んだ。

「 フィーネ! 旋回と同時に、急上昇! 上昇角70度! 」

『 危険です! 失速しますっ! 』

「 させるんだ! 急降下からの脱出角度を算出してくれ! 」

『 了解ッ・・! 』

 急激な、横G。 計器類が少し、小さな音を立て、軋む。

「 フィーネ! 気付いているだろうが、コイツら・・ インテリジェンス通信を使ってやがる 」

『 そのようですね・・ 私が、インターセプト出来なかったのですから。 ・・遂に、親衛隊機が現れるようになりましたか 』

「 フッ・・ 望むところだ・・! 」

『 どこまでも、ご一緒致します 』

( 問題は、先行しているヤツの動きだ・・! )

 コクピットの外で回転する、青空と水平線・・ 俺は、先行機の機影を探した。



 何となくお分かり頂けたかと思いますが、要は『 目で見える状況 』を、そのまま書くに限ります。 説明文は最低限に抑え、補足的に必要であれば、会話文や状況描写内に取り入れるようにします。 そうすれば、説明的にはなりません。

 あと、所々に『 どうする・・? 』や『 ヤバイな・・ 』等、心理描写を入れると、状況描写の信憑性が増します。

 特記としては、例えコンピュータであっても、自分のサポートをしてくれるのだから、命令口調は避けたいところですね。 まあ、この辺りは作者の趣味ですが・・・


 状況描写は、冷静に、カッコ良く書きたいものですが、それ以前に、読者の方に分かり易く書くのが基本です。

 読んで頂いた方、全ての人が、『 同じ場所 』に立てるのが目標なのです。

 ・・まあ、文才など無い、普通人の私のレクチャーですから、「 この程度の表現力で、なにエラそうに言ってんだよ、お前 」とお怒りの方も多いかとは存じますが、基本は間違っていないと自負しておりますので、ご参考になさって下さい。



次章、ココまで来たら、お節介ついで・・ 情景描写の書き方も、レクチャー致しますね。

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