跋〜ふるさとの 花の盛りは 過ぎぬれて 面影さらぬ 春の空かな

 生え始めたばかりの鮮やかな黄緑の葉が、目の前にあるはずの空を覆う。キャンバスに打った輪郭線のない点描画のような若葉から、一つ、また一つと、粉雪に紅をさしたようなひとひらが、くるくると宙に踊る。

 その花びらが着地した足元には、ピンク色に染め上げられた一本の道が、ずっと下の方まで続いている。


 同じものが二度とない一瞬に、ポケットに手を伸ばす。スマートフォンを取り出すと、自分の頭が影を作った真っ黒な画面に、白い花びらが舞い落ちた。

 すると画面がぱっと明るくなり、メールのアイコンが光った。

 花びらを親指で押さえ、アイコンを人差し指でスワイプする。


「秋田先生 

 今年もロンドンの桜が満開になりました。週末は、セントジェームズ・パークでお花見です。

 そっちはもう、葉桜ですか?」


 画面の中には、濃いピンクと深い天色の帯の間に誇らしく立つ、観覧車ロンドン・アイ

 見上げれば、葉を透かして落ちる木漏れ日が眩しい。


 目に映える若葉の間に白とピンクの花びらが揺れるのを、画面の中に切り取った。



——了——

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葉桜の君に(和歌章題追加) 佐倉奈津(蜜柑桜) @Mican-Sakura

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