第5話 ナビゲーター

ナビゲーター。通称『ナビ』

私が黒崎チームのナビゲーターに配属されて2ヶ月。本当に驚くことの連続だった。


まずは黒崎の事だろう。彼女はどうにも何を考えているのか分からない人物である。私の異能は『ゲート』。それにより常に監視下に置かれているはずなのに嫌がる素振りをしない。普通の人ならば毛嫌う所だろう。今までもそうだった。

過去に一度だけ聞いた事がある。

『黒崎は嫌では無いのですか?常に監視下に置かれていて……。』


黒崎はどこかのルートで手に入れたのであろう小説をパタンと閉じると不可視モードにしてあるはずのカメラに向き直って口を開いた。

「嫌なわけないだろう?常に君が見守ってくれているんだ。私の味方になりうる人間がね。心強い仲間が見守ってくれてて何故それを嫌がるんだ?」

『……変わってますね。私は見守っているのではありません。監視しているんですよ?』

「ふふ。」


意味深に彼女は笑った。


彼女の異質さに気づいたのはそれから数日後の塔内調査の時だった。彼女の異能力は「身体強化」とデータにはある。しかし、彼女の強化の仕方は人間の身体がもつようなものではなかった。バイタル確認がてらその状態を解析するとどうにも回復力が異常に高いのだ。

『黒崎、貴女なにか隠していますよね?』

「なんの事かな?心当たりがありすぎて分からないや。」

『真面目に答えてください。貴女の回復速度は異常です。貴女の異能は身体強化のはず。ですが、どう見ても他の異能が発動しているようにしか見えません。』

「……ん〜じゃあナビには教えてあげるよ。」

『……何を隠しているんですか?』

「私には二つの異能がある。一つは身体強化。任意の場所を強化できる。但し一箇所しか強化は出来ないから戦闘時は切り替えて使ってる。もう一つは……。」

『も、もう一つは?』

「再生。どんなに大きな怪我をしてもたちどころに治ってしまう。但し凄い勢いで体力を消耗するから回復後は疲れてしまう。」

『死なない限りどんな怪我でも治るんですか?』

「あぁ。恐らくね。過去に色々実験されてさそれ以来こっちの能力は秘匿してるんだ。まぁ、話したところで誰も信じないだろうけど。」

『……そうですね。私はバイタル見ているので分かりますけど。ところで、他の心当たりってなんですか?』

「そっちは秘密。絶対言いたくない。」


彼女は本当に秘密が多い。どこにも出ることが出来ない籠の中の鳥の筈なのに何故か籠の中を飛び回ってるような自由さ感じさせる。


『本当に、あなた達は馬鹿ですか?』

天井から伸びたスピーカーの前には、派遣された第四階層を爆破した馬鹿どもが雑魚寝していた。

「一緒にしないでよナビ。私諸共爆破したネキが一番頭悪いって」

「黒崎さんなら大丈夫だと判断しましたし、結果大丈夫だったんだからもういいじゃないですか〜」

「うるせぇ。少しは反省してろ。」

「反省も何も私は被害者でしょ。死ぬかと思ったよ」

「寧ろなんでお前の方が怪我軽いんだよ」

「運だよ運。」

合同調査は失敗。だが、何らかの組織があの塔の中で蠢いているのは確定した。

『まぁ、全員ここで大人しくしていてください。特にネキと八神は重傷なんですからね?骨折数箇所、一部内臓まで傷ついているんです。』

黒崎ほどではないにしろ二人ともかなりの重傷を負っていた。

『そもそも爆弾なんてどこから取り出したんですか?』

「え?バックの中に入っていたんですけど……。ナビじゃないんですか?」

『歩く危険物達に渡すわけないじゃないですか。』

「今日のナビ辛辣すぎませんかねぇ!」

彼女らには身寄りがない。帰っても、帰らなくても一緒。そんな彼らに爆弾なんて物を渡したら……。また一人に……。そう思うとバックになんて入れられないのだ。


「ふふ。ナビは優しいからね。」

黒崎が余裕の表情を浮かべ、読書を始める。彼女は一体……何を知っているのやら……。

『なっ、何言ってるんですか?』

「今回の報告書、どうしようかな〜爆発は化物のせいにできるとしても……また知性体だったしなぁ……。」

「黙ってればバレなさそうだけどな。」

『そうですね〜。』

「おや?ナビが隠蔽に乗り気だなんて珍しいですね」

『隠蔽大好きなどっかのアホどもと違って私真面目なんで。ですが、今回は少し勝手が違いすぎます。用心した方がいいですよ。最悪後ろから刺されかねません。』

「おっと、そいつは物騒な話だねぇ。ねぇ何の話?おじさんも混ぜて」

「あ、先生。聞かない方がいいですよ。死にたくなければ」

「そうなの?じゃあ聞かなかったことにするわ。黒崎、君後は自室でゆっくり休養ね。他の二人はあと一週間くらい様子見だね〜。特に八神、君電気使いすぎると感電して中まで火が通っちゃうんだから使いすぎないようにしないと。能力鎮静剤打ち込むよ?」

「……はい。」

「もしかして八神さん、注射怖いんですか?」

「んなわけないだろ。」

『ネキ、子どもみたいな真似はやめなさい。ほら、先生が注射器構えてますよ』

「あ、ナビ、教えないでよせっかく打とうと思ったのに」

「はは。先生も相変わらずだね。」


医務の先生を追い出すと三人が集まり、話し合いを再開した。

「現状、何らかの組織が絡んでいるこれは確定ね。」

『えぇ。もしかしたら我々側に内通者もしくは……。』

「あぁ。居そうですねこの組織。」

「居てもおかしくはねぇな。」

『私も私なりに調べてみますが、アホ三人組は養生してください。』

「だから私は軽傷だからもう動けるって。」

ただでさえ彼等は危険と隣り合わせなのだ。せめて戻れる場所の露払いくらい私にさせて欲しいと思う。

『今は回復に努めてください。』

「「……。はい」」


二週間後。八神とネキは復帰を許された。その間黒崎は他の調査隊に編入も考えられたが受け入れ先の調査隊に尽く拒否され、少ししょげていた。たらい回しにされ、戻ってきた頃彼女はベッドに突っ伏してそのまま眠ってしまった。


『暫く大人しくしていて下さい。』

返事など期待もしていないが私はベッドで寝息を立てている黒崎に言葉を投げた。

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